秋篠宮ご夫妻は6月29日に結婚35周年を迎えられました。お二人の婚約・結婚当時、メディアはどのように報じていたのでしょうか。名古屋大学大学院人文学研究科准教授の河西秀哉氏による著書『皇室とメディア』より、当時の報道と「開かれた皇室」というテーマについて紹介します。
婚約報道と「開かれた皇室」
1989年8月26日、『朝日新聞』は、当時天皇の次男であった礼宮文仁親王と川嶋紀子さんの婚約が固まったことをスクープしました。昭和天皇の崩御による喪中ではありましたが、これは皇室にとっての慶事として広く報じられます。特に、礼宮さまが「子供のころからのびのびと育ち、皇室の枠にとどまらない自由な気風の持ち主」であり、結婚も「紀子さんの人柄にひかれて選んだ」個人的な意思が尊重されたことが強調されました。天皇ご夫妻も二人の意思を尊重し、皇族としては異例ともいえる自由な交際からの結婚が実現する見通しとなった、と報じられたのです。これはまさに、「開かれた皇室」の象徴であり、「権威」に縛られない「人間」らしい結婚の形として受け止められました。これ以後、他のメディアも一斉に報道を開始しました。
秋篠宮ご夫妻 婚約発表記者会見 1989年9月12日
納采の儀と「3DK」報道
一般の結納にあたる納采の儀では、「3DKに使者を迎え」といった見出しが象徴するように、学習院大学の職員共同住宅にお住まいだった一般家庭の女性が皇族に嫁ぐことが、歓迎ムードとともに報じられました。美智子皇后に次ぐ二人目の「平民」出身の皇族妃となること、そして庶民的な家庭環境が特に強調されたのです。しかし、こうした報道の裏側では、記者たちによる紀子さんのご自宅への張り込みが非常に激しかったと記録されています。各メディアは学習院大学の共同住宅前に朝から晩まで張りつき、紀子さんが外出する際には取材車両が何台も追尾しました。「右筋から、皇室の私事を商売に利用していると攻撃されても仕方ない」と評されるほど、プライバシーに踏み込む過熱報道が行われていたのです。
結婚式とテレビ特番
そして1990年6月29日、結婚の儀が執り行われ、秋篠宮家が創設されました。結婚当日は、テレビ各局がその様子を大々的に中継しました。NHKは朝の情報番組からお二人の話題を伝え、賢所での結婚の儀、天皇・皇后両陛下に会う朝見の儀、パレードの様子などを生中継し、夜のニュースでも大きく取り上げました。民放各局も同様に儀式を生中継したほか、ワイドショーは結婚の話題一色となり、さらに東京では日本テレビ、TBS、フジテレビが夜7時から2時間の特別番組を編成するほどの力の入れようでした。TBSの番組では郷ひろみ・二谷友里恵夫妻が司会を務め、秋篠宮ご夫妻のエピソード紹介や全国各地からのお祝いムード中継などが行われました。この時期の「開かれた皇室」は、特にワイドショーを中心としたメディアが積極的に取り上げる格好のテーマであり、お二人の結婚はまさにその象徴と見なされたのです。「テレビの前も人だかり」という見出しの記事があったように、多くの人々がパレードなどの様々な儀式をリアルタイムで見守りました。新聞も大きく報道し、週刊誌も特集を組んで様々なエピソードを紹介するなど、メディア全体が二人の結婚を祝福するムードでした。
このように、秋篠宮ご夫妻の婚約からご結婚にかけて、メディアは「開かれた皇室」の具体例としてお二人を取り上げ、特に紀子さまの庶民的なご出身に注目が集まりました。その一方で、過熱する取材競争はプライバシー侵害の批判を招く一幕もありました。お二人のご結婚は、メディアと皇室の関係、そして大衆の皇室への関心のあり方を映し出す出来事だったと言えるでしょう。
【参考文献】
- 河西秀哉『皇室とメディア』（新潮選書）
