長期引きこもり62歳男性の現実 40年の空白期間、両親の死、そして直面する課題

山口県宇部市に住む国近斉さん(62歳)は、高校中退後、約40年という長い期間、引きこもり生活を送ってきました。55歳の時にNPO法人に相談したことを契機に自立支援を受け始め、2年後には就労も経験しました。しかし、40年に及ぶ長い空白期間の代償は大きく、社会との再接続には様々な困難が伴います。この記事では、実態が見えにくい「引きこもり」や「孤立・孤独」の問題を、国近さんの経験を通して深く掘り下げ、今求められる支援のあり方について考えます。

40年の引きこもり生活が残した壁

国近斉さん(62歳)の現在の様子国近斉さん(62歳)の現在の様子

国近さんが日記に綴った言葉は、長期にわたる引きこもりの苦悩を生々しく伝えています。「家にいても外に出てもなんか居心地が悪い。どうしてこんな気持ちになっちゃうんだろう。あまりに長すぎた。ボーっとした生活のツケなのだ」「このまま孤独死する」「やらなくちゃいけないことが山積しているのに、一歩足を踏み出せないでいる。時間は待ってくれないのに、ああ今日も一人切り、一人で焦り、一人で笑って、一人で泣いて…」。これらの言葉は、社会から孤立し、内面に閉じこもる中で募る不安や焦り、そして先の見えない絶望感を表しています。

親の死と迫りくる現実

国近斉さん、両親を亡くした50歳頃国近斉さん、両親を亡くした50歳頃

子供の頃から人付き合いが苦手だった国近さんは、高校で学習についていけなくなり2年で中退。これが約40年の引きこもり生活の始まりでした。「一人で食事したりとか、父や母に申し訳なかったけど、そういう生活が続きましたね」と語るように、親に支えられながらも、その心には負い目があったことがうかがえます。母親が病で亡くなり、数年後には父親も急逝。一人取り残された国近さんは、両親が遺した貯金を切り崩して生活せざるを得なくなりました。通帳の残高が減っていくのを見るたび、「今までこんなに焦る気持ちなんてそんなになかったのに、ようやくことの重大さが広がってきたのだ」(2017年3月21日の日記より)、「昼日中、誰もが出かけて僕だけ部屋の中、過ごしていると、あれこれ考えて心が乱れる」(2017年5月10日の日記より)といった日記の記述は、経済的な不安と将来への焦りが彼を追い詰めていった様子を物語っています。

社会的な取り組みと今後の支援

長期化・高齢化する引きこもりは、個人の問題だけでなく社会全体で取り組むべき課題です。2024年6月には厚生労働省が全国の市町村職員向けに引きこもり支援セミナーをオンラインで開催するなど、行政も対策に乗り出しています。山口県宇部市で長年支援活動を行う山口大学大学院の山根俊恵教授は、「何もしないでただ待っていたら、10年、20年あっという間です。動ける安全な環境を作る、仕掛けて待つ、ということを私たちはやっています」と述べ、対象者に寄り添いながらも、積極的に働きかける支援の重要性を強調しています。国近さんの例は、たとえ50代、60代になってから支援につながり、一歩を踏み出せたとしても、過去の時間が作った溝を埋めることの困難さを示唆しています。社会復帰への道のりは平坦ではなく、経済的な問題、人間関係の再構築、健康問題など、乗り越えるべき多くの壁が立ちはだかります。彼のような長期引きこもりや高齢の孤立者が安心して生活し、必要に応じて社会と関われるような、きめ細やかで継続的な支援体制の構築が急務となっています。

Source link