北大西洋条約機構(NATO)は先日、首脳会議で画期的な合意に至りました。加盟国の防衛費をこれまでのGDP比2%以上から、新たに5%へと引き上げる目標を採択したのです。この決定の背景にはトランプ前米大統領の強い影響力があり、同時に、米国からは同盟国である日本に対してもNATOと同様に防衛費5%への引き上げを求める声が上がっており、今後の日本に大きな影響を与える可能性を秘めています。この新しい目標の詳細と、その背景、そして日本への波及効果について掘り下げます。
2024年に行われたNATO首脳会議での加盟国首脳ら
合意内容の詳細
新たな防衛費目標はGDP比5%です。その内訳は、兵器の調達や近代化といった「中核的な防衛費」に3.5%、防衛・安全保障関連のインフラ整備や産業投資などに1.5%を充てるとしています。この目標は2035年までの達成を目指し、2029年には見直しも予定されています。これは、加盟国全体の防衛能力を抜本的に強化し、新たな安全保障環境に対応するための具体的な数値目標となります。
NATO加盟国が合意したGDP比5%の防衛費目標の内訳を示すグラフィック
トランプ氏の影響と「ご機嫌取り」の背景
今回の5%目標合意には、ドナルド・トランプ前米大統領の存在が強く影響しています。彼は以前から、NATO加盟国が自国の防衛に十分な費用を負担していないとして不満を表明し、繰り返し防衛費の増額を要求してきました。時にはNATOからの離脱を示唆することもあり、加盟国にとっては常に懸念材料でした。合意後、トランプ氏は「これは非常に大きなニュースだ。NATOはアメリカと共に強くなる。皆にとって大きな勝利だ」と語り、満足感を示しました。
会議前から、NATOのマルク・ルッテ事務総長は「この数十年間、どの大統領も成し遂げられなかったことをあなたは達成するでしょう。欧州は大きな額を払うことになるが、それはあなたの勝利となります」といった融和的なメッセージを送るなど、「ご機嫌取り」と見られる動きがありました。オランダ国王までもが、会議中にトランプ氏をハウステンボス宮殿に滞在するよう異例の招待を行っています。
NATOの防衛費増額に影響力を持ったドナルド・トランプ前米大統領
なぜNATOはトランプ氏を警戒・懐柔するのか
なぜNATOがこれほどまでにトランプ氏の意向を気にかけ、懐柔を図るのでしょうか。元海上自衛隊自衛艦隊司令官の香田洋二氏によると、NATOが最も恐れているのは、アメリカがNATOから離脱し、その結果としてロシアの影響力が欧州で拡大することだといいます。特に、ウクライナ侵攻以降、この脅威は目に見える形で現実のものとなり、アメリカを引き留めることがNATOにとって喫緊の課題となっているのです。5%という野心的な目標設定は、トランプ氏の要求に応え、アメリカとの同盟関係を維持・強化するための強い意思表示と言えます。
元海上自衛隊自衛艦隊司令官の香田洋二氏、NATOの対米関係について解説
日本への潜在的影響
今回のNATOの決定は、直接的には加盟国のものであるものの、同盟国である日本にも無関係ではありません。米国は既に、日本に対してもNATOと同様に防衛費をGDP比で5%まで引き上げる必要があるとの考えを示唆しています。日本は現在、防衛費をGDP比2%目標に向けて増額を進めている最中ですが、もし米国からの5%要求が本格化すれば、現在の防衛費水準(約10兆円)から大幅な増加(約25兆円規模)が求められることになり、経済や社会保障など他の予算分野に大きな影響を与える可能性があります。
今回のNATOによる防衛費GDP比5%への引き上げ合意は、変化する国際安全保障環境への適応と、特に米国の同盟重視姿勢に応えるための重要な一歩です。しかし、加盟国間での目標達成に向けた温度差や財政的な課題も存在します。そして、この動きが日本にもたらす防衛費増額圧力は現実のものとなりつつあり、今後の日本の安全保障政策および財政運営に大きな影響を与える可能性があり、その動向が注目されます。