MLB、日本市場へ本腰:交流戦イベントや東京シリーズに見る戦略

今年のプロ野球シーズンが中盤を迎える中、日本の野球界では特別な動きが見られました。メジャーリーグベースボール(MLB)が、アメリカ合衆国に次ぐ重要市場として日本を強く意識し、積極的なマーケティング戦略を展開しているのです。その一端は、今年の交流戦中に福岡ソフトバンクホークスが開催したイベントや、3月のMLB東京シリーズからはっきりと見て取れます。

ソフトバンクホークスとの異色コラボ「AMERICAN BASEBALL EXPERIENCE」

今シーズン、福岡ソフトバンクホークスは、6月3日から15日の交流戦期間中に「AMERICAN BASEBALL EXPERIENCE」と題した異色の催事を開催しました。これはアメリカのベースボールと日本の野球を融合させ、両国の伝統と文化を感じながら野球を楽しむことをテーマにしたイベントです。

みずほPayPayドームのゲート前には、菊池雄星選手や鈴木誠也選手といった日本人メジャーリーガーの写真が並ぶフォトスポットが設けられ、多くのファンが記念撮影を楽しんでいました。MLB関連グッズの販売ブースも設置され、特に大谷翔平選手のグッズには長蛇の列ができるほどの盛況ぶりでした。

また、ドームに併設された「王貞治ベースボールミュージアム」では、野球日本代表(侍ジャパン)が世界一に輝いたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)などの特別展示が行われ、元メジャーリーガーらを招いたトークショーも開催されるなど、MLBの世界観を多角的に体験できる企画が満載でした。

観客で賑わうメジャーリーグの試合風景、日本市場戦略の文脈で観客で賑わうメジャーリーグの試合風景、日本市場戦略の文脈で

試合中の演出にもMLBスタイルが取り入れられました。スコアボードの選手表示はすべて英語表記となり、スタジアムMCもMLB風の盛り上げ方を採用。さらに、千賀滉大投手をはじめとする日本人メジャーリーガーからの「MLBも楽しんで」というメッセージ映像が流されるなど、ソフトバンク対セ・リーグ球団という対戦カードでありながら、意図的にMLBの存在をアピールする工夫が随所に見られました。これは、日本の野球ファンにとってMLBをより身近な存在にしたいというMLB側の強い思惑の表れと言えるでしょう。

街中や文化への浸透を図る戦略

MLBの日本市場へのアプローチは、球場内に留まりません。福岡市の中心繁華街である天神地区の大型ビジョンでは、大谷翔平選手をはじめとする日本人メジャーリーガーの活躍シーンが繰り返し放映され、街を行き交う人々の注目を集めました。

さらに、興味深い取り組みとして、6月に入ってから日本人メジャーリーガーのイラストを描いたマンホールのふたが、選手の出身地やゆかりのある街に寄贈されるという出来事がありました。このマンホールのふたは、MLBが日本の鋳物メーカーに特注して製作させたものとされており、日本の社会や文化に深く根ざしたマーケティングを仕掛ける担当者がMLB内部にいることをうかがわせます。これらの事例は、MLBが短期的なイベントだけでなく、日本の日常生活や文化にも浸透していくような緻密な戦略を描いていることを示唆しています。

日本市場の重要性を示す「MLB東京シリーズ」

MLBが日本を最重要市場の一つとして位置づけていることは、今年3月に東京ドームで開催された「MLB東京シリーズ」でも明確に示されました。ロサンゼルス・ドジャースとシカゴ・カブスが来日し、公式戦2試合を行ったほか、日本の阪神タイガース、読売ジャイアンツとのプレシーズンマッチ4試合も開催されました。このシリーズは、ドジャースのオーナーシップ母体である投資会社グッゲンハイム・パートナーズがプレゼンティングスポンサーを務めるなど、MLBが本腰を入れた興行でした。

結果として、公式戦、プレシーズンマッチを含め、開催されたすべての試合のチケットが完売。多くの野球ファンが東京ドームに詰めかけました。入場ゲートでの厳重なチェック体制や、球場スコアボードの完全なMLBスタイル表示など、試合運営のあらゆる面でMLBの方式が適用されました。場外に設けられたグッズ売り場も大盛況で、記録的な売り上げを達成したと言われています。この東京シリーズの大成功は、日本市場におけるMLBへの関心と潜在的な需要の高さを示す決定的な証拠となりました。

これらの交流戦イベント、地域に根差した取り組み、そして東京シリーズの成功は、MLBが日本を単なるファン層拡大の対象ではなく、戦略的に重要な市場として捉えていることを明確に示しています。日本人選手の国際的な活躍を追い風に、MLBは今後も様々な形で日本へのアプローチを強めていくものと見られます。これは、スポーツビジネスの国際化という側面だけでなく、日米間の文化交流の一環としても注目されるでしょう。

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