岩手県北上市で今月4日、81歳の女性が自宅の居間でクマに襲われ死亡するという痛ましい事件が発生しました。安全であるはずの民家内にまでクマが侵入した事態に対し、地元の猟友会メンバーは「クマの習性が変わってきているのでは」と戸惑いを隠せません。この地域では連日クマの出没が確認されており、住民の不安が高まっています。
住宅内で見つかった犠牲者と捜索
事件は4日午前7時40分ごろに発覚しました。実家を訪れた息子さんが、北上市和賀町にある高橋成子さん(81)の自宅居間で、血を流して倒れている高橋さんを発見し通報しました。高橋さんの遺体には動物、おそらくクマによるものとみられる爪の傷が頭や全身に多数ありました。
玄関の扉は開いており、家の中からクマの毛とみられるものも見つかったため、警察はクマが玄関から侵入した可能性が高いとみています。襲ったとみられるクマは現在も捕獲されていません。現場付近では警察官が警戒にあたっており、「まだ近くにいる可能性はある」と話しました。
近隣住民からは「死者が出たのは初めてでショックが大きい」「対策しようがない」といった声が聞かれます。
岩手県北上市のクマ襲撃事件現場付近で警戒にあたる警察官
連日の出没と繰り返される侵入被害
この地区では、今週に入って連日のようにクマの出没と被害が報告されています。小屋や倉庫への侵入、保管してあった米が食い荒らされるなどの物的被害が相次いでいました。
3日に被害に遭った住民の方は、自宅にクマが侵入し米を食べられただけでなく、同日に2度もクマと遭遇したといいます。一度目は午前7時半ごろ、裏口で洗濯物を干そうとした際。二度目は午前11時ごろ、玄関でガラスを拭いていた際に、いつの間にか家の中に入ってきたクマと出くわしたそうです。「背を向けて2階に避難した」と恐怖を語り、夕方には公民館に自主避難したとのことです。翌4日朝にも、同じ方が自宅に来た際にクマが逃げていくのを目撃しており、「もし襲われていたら誰も通報できなかった」と震えながら話しました。
地元の警戒と猟友会の困惑
事態を受け、市は捕獲に向けた対策を進めています。女性が襲われた自宅周辺には、地元の和賀猟友会によってクマ捕獲用の罠が設置されました。和賀猟友会の鶴山博会長は、「この辺りをクマが行き来していたようだ。悪さをするやつは罠にかかってほしい」と話しています。
猟友会は付近の見回りなども行っており、会長は「クマの習性が変わったのか、去年おととしあたりから小屋の中に入るなど年々ひどくなっている。しまいには民家にまで入るようになってしまった」と、近年のクマの行動の変化に対する困惑をあらわにしました。
広がる影響と公的対応
北上市内では、今回の事件以前にも市街地でのクマ目撃情報がありました。先週撮影された高校の防犯カメラ映像には、白昼堂々、歩道を歩き校内に入り込み、自転車置き場で何かを探すように動き回るクマの姿が映っていました。これを受け、高校では体育などの屋外授業が全て中止されました。
市内の小学校では児童の集団下校が実施されています。先生は児童たちに「クマと出合ったらびっくりして逃げたくなるが、安全に気をつけて」「自分の命は自分で守る」と指導し、高学年には低学年の安全も気遣うよう促しました。
岩手県は今回の事態を受けて、4月に出していたツキノワグマに関する注意報を、2年ぶりに「警報」に引き上げました。北上市も和賀町内の3カ所に自主避難所を開設し、高齢の一人暮らしなどで不安な場合は避難するよう呼び掛けています。
地区の自治会長は、「人が亡くなったとなると尋常ではない。クマ騒動で避難所開設は初めての記憶だ」と述べ、巡回や住民一人ひとりの注意喚起が必要だと語り、事態の深刻さを示しました。
まとめ
今回の岩手県北上市でのクマによる女性死亡事件は、民家内という安全な場所で発生した点で極めて異例であり、地域の住民に大きな衝撃を与えています。連日の出没や繰り返される侵入被害、さらには市街地での目撃情報など、クマの行動が変化している可能性が指摘されており、事態の深刻さが増しています。関係機関による捕獲作業や警戒が続けられており、住民は最大限の注意を払い、身の安全を守る必要があります。