伊東市長の学歴詐称問題:卒業、中退、除籍の違いと背景

伊東市の田久保真紀市長が、東洋大学を除籍されていたにもかかわらず卒業と偽っていた問題が波紋を広げ、2025年7月には辞職勧告を受ける事態に追い込まれました。この問題を受けて改めて注目されているのが、「卒業」と「除籍」、そして「中退」それぞれの正確な違いです。多くの人が混同しがちなこれらの学籍ステータスについて、詳しく解説します。

「卒業」「中退」「除籍」は何が違う?

まず「卒業」は、大学の定める単位を全て取得し、課程を修了することを指します。これにより「学士」の学位が授与され、いわゆる「大卒」となります。

一方、「中退」は、学生自身の意思で大学の課程を途中で辞めることです。「学費の継続が困難になった」「別の大学や専門学校へ転校する」「大学での学びへの意欲がなくなった」など、理由は様々です。

これに対し「除籍」は、大学側が学生の学籍を抹消する措置です。主な理由としては「学費の長期未納」「大学の定める在籍期間を超過」「学則違反による懲戒処分(例:犯罪での実刑判決)」などが挙げられます。除籍は、大学から事実上の「出禁」とされる非常に重い処分です。大学によっては、中退や学費未納による除籍の場合、一定期間後に復学が認められるケースもあります。

田久保市長のケースは学費未納による除籍が理由とみられていますが、私立大学教授によれば、学費未納による除籍の前には、大学から何度も学費納入の督促状や「未納が続けば除籍となる」といった通知が届くのが通常です。さらに、除籍決定後には正式な除籍通知も送付されます。したがって、除籍されたことを「卒業」と勘違いすることは、状況を考えると極めて考えにくいと言えます。

東洋大学のキャンパス写真またはロゴ、伊東市長の学歴問題に関連東洋大学のキャンパス写真またはロゴ、伊東市長の学歴問題に関連

かつては「中退一流」? 政治家の「学歴盛り」の実態

かつて学生の間では、「中退一流、留年二流、卒業三流」という早稲田大学発祥の洒落は、大学よりも個人の志や行動を重んじる風潮を反映していました。

実際に、タレントのタモリさん、ミュージシャンの小室哲哉さん、俳優の堺雅人さんは早稲田大学を中退しています。作家の五木寛之さんは学費未納で除籍処分となりましたが、後に作家として成功し、未納学費を納めて中退扱いとなったという逸話もあります。投資家の堀江貴文氏も、学生時代に起業した会社が軌道に乗り東京大学を中退しています。一方で、作家の野坂昭如氏のように、実際には早稲田大学を卒業しているのに「中退」と公言していたという、「逆学歴詐称」とも言えるユニークなケースも存在します。当時は、中退や除籍でさえ、時に格好良い生き方として見なされる側面があったのです。

こうした「大学が全てではない」という価値観もあった時代と比較すると、田久保市長の学歴詐称はどこか寂しい印象を与えます。大学を除籍されていれば最終学歴は高校卒業となります。「静岡県立伊東城ヶ崎高等学校卒業」と堂々と公表すればよいものを、東洋大学卒業とした背景には、「大卒」という肩書きによる箔付けや、学歴コンプレックスがあったのではないかと推測されます。

伊東市の田久保真紀市長の顔写真、学歴詐称問題の渦中伊東市の田久保真紀市長の顔写真、学歴詐称問題の渦中

政治家における学歴の「盛り」(誇張や偽り)は、残念ながら珍しいことではありません。明治大学への入学自体が確認できなかったケース、米国の大学を卒業したとしながら単位不足で卒業できていなかったケース、米コロンビア大学への留学経歴に疑問符がついたケースなど、過去にも多くの問題が報じられています。「大卒」の経歴が有権者からの票につながると信じているとすれば、それは有権者を軽視していると言わざるを得ません。

小池都知事の学歴疑惑との共通点?

近年、小池百合子東京都知事もカイロ大学卒業歴の詐称疑惑が報じられ、卒業証明書を公開したものの、その真偽自体が問われる事態となりました。公人の学歴に関する疑念は、その信頼性に直結します。田久保市長が、こうした過去の事例を「参考」にした可能性も指摘されています。

今回の伊東市長の学歴詐称問題は、「卒業」「中退」「除籍」といった学籍ステータスの厳密な違いを改めて浮き彫りにしました。そして、政治家という公人にとって、自身の経歴における正確性と正直さが、いかに重要であるかを改めて問いかける事例と言えるでしょう。有権者は、候補者の掲げる政策や人柄はもちろん、公表される情報、特に学歴のような基本的な事項においても、透明性と信頼性を求めています。


参考資料

J-CASTニュース / Yahoo!ニュース