日本の防衛戦略が新たな局面を迎えています。初の国産長射程ミサイルとして開発が進む「12式地対艦誘導弾能力向上型」の最初の配備先について、防衛省が陸上自衛隊健軍駐屯地(熊本市)とする方向で最終調整を進めていることが明らかになりました。2025年度末の配備開始が見込まれ、これにより日本は「反撃能力」(敵基地攻撃能力)を保有することになります。将来的には大分県の湯布院駐屯地、そして沖縄県の勝連分屯地への配備も視野に入れられています。
南西諸島防衛の要:配備の背景と目的
この長射程ミサイルの配備は、南西諸島周辺で軍事的圧力を強める中国を牽制する重要な狙いがあります。中国の海洋進出が活発化する中、日本の安全保障環境は厳しさを増しており、抑止力の強化が喫緊の課題となっています。今回配備されるのは、12式能力向上型のうち、地上発射機から撃ち出す「地発型」です。その飛翔距離は約千キロメートルにも及び、九州からでも大陸の一部を射程に収めることが可能となり、日本の防衛体制に新たな層をもたらします。
2024年10月、伊豆諸島・新島での「12式地対艦誘導弾能力向上型」地上発射試験。日本の長射程ミサイル開発の象徴的瞬間。
反撃能力保有がもたらす議論と課題
「反撃能力」の保有は、日本の防衛政策における大きな転換点です。しかし、その導入には根強い懸念の声も上がっています。一つには、長射程ミサイルの配備先が他国からの標的となるリスクが高まるという指摘です。また、「専守防衛」の理念、すなわち相手から武力攻撃を受けた場合にのみ防衛力を行使するという原則との整合性についても、国民の間で活発な議論が続いています。政府は、国際法を遵守しつつ、専守防衛の範囲内での運用を強調していますが、その具体的な解釈と運用方針が注目されます。
運用を担う部隊と今後の展望
今回、健軍駐屯地を拠点とする陸上自衛隊の第5地対艦ミサイル連隊が、この最新鋭の長射程ミサイルの運用を担うことになります。彼らの専門性と経験が、ミサイルの効果的な運用、ひいては日本の防衛力強化の鍵となるでしょう。2025年度末の健軍駐屯地への配備を皮切りに、来春以降には湯布院駐屯地へ、さらに将来的には勝連分屯地への配備も計画されており、日本の防衛体制は南西地域を中心に段階的に強化されていきます。
結論
初の国産長射程ミサイルである「12式地対艦誘導弾能力向上型」の健軍駐屯地への配備は、日本の安全保障戦略における歴史的な一歩です。これにより反撃能力を保有することとなり、高まる地域のリスクに対応するための抑止力強化が期待されます。一方で、その運用は国民の安全保障と「専守防衛」の原則とのバランスを慎重に考慮しながら進められる必要があり、今後の動向が注視されます。