トランプ氏の復讐心、イーロン・マスクも標的か:マフィア流支配の実態

かつて蜜月関係にあったドナルド・トランプ前大統領と実業家のイーロン・マスク氏。しかし、大型減税法案を巡る意見の対立を機に関係は決裂したと言われている。この二人の今後の関係がどうなるのかは、多くの関心を集めている。国際ジャーナリストの矢部武氏は、トランプ氏の行動原理を分析し、彼が絶対的な忠誠を求め、それに歯向かった者には容赦なく復讐する傾向があると指摘する。かつての側近や、ある意味「身内」とも言える存在だったマスク氏も、この例外ではないかもしれないというのが氏の見方だ。

トランプ氏を突き動かす「個人的な恨みと復讐心」

トランプ氏の行動原理として特に目立つのは、個人的な恨みや復讐心である。第二期政権が発足して半年近くが経過するが、彼の言動の多くが過去に自分を起訴した検察官、捜査に関わった政府職員、あるいは一期目に十分に忠実ではなかった元政権幹部、さらには自身の政策を批判する政敵など、100を超える個人や組織への報復に向けられていると分析されている。さらに懸念されるのは、彼が司法省をはじめとする政府機関を、これらの復讐を果たすための「道具」として「武器化」していると見られる点である。

ドナルド・トランプ前大統領の写真、イーロン・マスク氏との関係性や政治手法に関する記事のイメージドナルド・トランプ前大統領の写真、イーロン・マスク氏との関係性や政治手法に関する記事のイメージ

「マフィアのドン」に例えられる政治手法

トランプ氏は、自身がマフィアのボス、すなわち「ドン」に例えられることを好むと言われている。その政治スタイルは、まるでニューヨークのギャングたちの生き様を描いた映画『グッドフェローズ』やマフィア映画の金字塔『ゴッドファーザー』を彷彿とさせると指摘されることがある。2025年2月、ホワイトハウスの執務室でウクライナのゼレンスキー大統領と行った会談でのやり取りは、まさにそれを象徴する出来事だった。

ウクライナ大統領との対話に見る「ゆすり屋」的側面

ゼレンスキー大統領に対し、トランプ氏は脅迫とも取れる強い口調で警告を発したとされる。「ウクライナは米国と取引しなければならない。さもなければ、米国はロシア侵攻以来の支援を打ち切るだろう」と迫り、最終的には「和平の準備ができたら、戻ってきなさい」と席を立つことを促したというのだ。この会談の後、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、トーマス・フリードマン氏は、「我々はマフィアのゴッドファーザーに率いられ、犯罪組織のボスのようにロシアと領土を分割しようとしているのだろうか? “私がグリーンランドを手に入れたら、あなたはクリミアを。私がパナマを手に入れたら、あなたは北極の石油を手に入れる。そしてウクライナのレアアースを分け合おう。それが公平だ”」と論説で皮肉たっぷりに書いた。これは、世界最高の権力を持つ者が、同時に世界最強の「ゆすり屋」にもなり得るという現実を示唆している。

側近も例外ではない「絶対服従」の要求

トランプ氏の「マフィア流」とも言えるやり方は、外交だけでなく、内政や政権運営にも色濃く表れている。政権の閣僚や補佐官には、大統領への絶対的な服従と忠誠が求められる。大統領に反対したり、逆らったりすることは決して許されない。そこでは、法律や憲法よりも大統領への忠誠心が何よりも優先される。つまり、トランプ氏の指示が法に反すると判断した場合でも、それに従わなければならないという暗黙の了解が存在し、それができない者は解任されるか、自ら辞任する道を選ぶしかない状況が生まれる。

かつての蜜月相手、イーロン・マスク氏への影響

このようなトランプ氏の政治スタイル、特に彼が一度「敵」と見なした相手や、絶対的な忠誠を示さない者に対して取る報復的な姿勢は、かつて親密だったイーロン・マスク氏との関係にも影響を及ぼしうる。大型減税を巡る対立は、トランプ氏が求める「絶対服従」からの逸脱と見なされた可能性がある。矢部氏の分析によれば、トランプ氏の復讐の標的リストに、過去の側近や関係者でありながら後に反抗的な態度を見せた人物が含まれていることを踏まえれば、マスク氏もその例外ではないと考えられる。彼らの今後の関係性は、トランプ氏のこうした支配的な政治手法の行方を占う上でも、注視すべきポイントとなるだろう。

腕を組んで立つイーロン・マスク氏とドナルド・トランプ前大統領、かつての親密な関係を示す写真腕を組んで立つイーロン・マスク氏とドナルド・トランプ前大統領、かつての親密な関係を示す写真

参考文献