ヘヴィメタルバンドを彷彿とさせる鮮烈なビジュアルで異彩を放つアイドルグループ、東京サイコパス。そのメンバーである白亜御前さんは、約3年前に自身のInstagramでレズビアンであることをカミングアウトし、多くのファンの間で大きな話題となりました。腕から胸元、そして背中にも刺青を纏う彼女の、その決断の背景と半生に迫ります。日本の社会における性的少数者の可視性という点でも、彼女の経験は注目に値します。
セクシャリティのカミングアウト:恐怖と解放
自らのセクシャリティを公表した白亜さん。現役アイドルとして、この告白には相当な勇気が必要だったことでしょう。彼女自身も「怖さがまったくなかったわけではありません」と語ります。しかし、それ以上に彼女にとって辛かったのは、上京するまでの期間でした。生まれ育った大分県はコミュニティが狭く、女性が好きであるという自身のセクシャリティを誰にも打ち明けられない雰囲気がありました。中学生の時に女性の担任教師へ抱いた感情が単なる尊敬や憧れではないと自覚した際も、その思いを伝えることは不可能だと感じていたそうです。なぜなら、人は他者を自分の見たいようにしか解釈しないことが多く、自身の告白がどのように受け取られ、広まるか予測できなかったからです。この閉塞感が、後の彼女の大きな決断へと繋がっていきます。
高校中退と上京:故郷への「違和感」
高校を中退して単身上京した理由には、彼女自身のセクシャリティが深く関係しています。中学から続けていた陸上の推薦で高校に入学したものの、学校生活に馴染むことができませんでした。怪我で陸上ができない時期があったこともありますが、それ以上に、周囲の女子生徒たちが「みんな男子のことを好きになる」という前提で青春を謳歌している様子に強い違和感を覚えていたのです。そんな折、東京で開催されたレディ・ガガのライブを観に行く機会を得て、その圧倒的なスケールに心を奪われ、「もっと大きな都市に行きたい」という願望が芽生えました。当時、誰にも打ち明けられず悩んでいたセクシャリティについて、東京に行けば同じような悩みを持つ人がいるだろうという希望が、彼女にとって大きな救いとなったと言います。
両親の独特な反応:「危険だからダメ」ではない理由
高校生が単身で東京に移り住むことに対し、ご両親の反対は当然あったでしょう。しかし、白亜さんの両親の反対理由は少し独特だったようです。「東京が危険だからダメ」という一般的な理由ではなく、「学費や生活費を実家に頼るだろうからダメだ」という現実的なものでした。白亜さんの家庭は昔からかなりの放任主義だったと振り返ります。結局、すべて自分でアルバイトをして賄うことを条件に、上京は許されました。実際に彼女は朝、昼、夜と様々なアルバイトを掛け持ちし、自力で生計を立てていました。彼女は6人きょうだいの末っ子ですが、常に家庭内で感じていたのは、子どもたちがどこか「置き去り」にされている感覚だったそうです。良く言えば両親がいつまでもラブラブで、二人だけの世界に子どもたちが存在している、という状況でした。大人になってから気づいたのは、両親の姿勢は「寛容」なのではなく「無関心」に近かったということ。だからこそ、彼女が18歳で刺青を入れた時も、単身上京を告げた時も、そしてレズビアンであることを打ち明けた時も、両親からの強い反対はなかったのです。
レズビアンであることを公表した異色アイドル、白亜御前さん
彼女の告白とそこに至るまでの道のりは、個人のセクシャリティ、地方と都市部の違い、そして家族関係といった多様な側面を含んでいます。特に性的少数者が自身をオープンにすることの難しさや、それを可能にする環境の重要性を示唆しています。白亜御前さんのように、公の場で自身のセクシャリティを語る存在が増えることは、日本の社会における多様性への理解促進に繋がる一歩と言えるでしょう。
白亜御前さんの背中に彫られた、蝶の羽をモチーフにした刺青
彼女のこれまでの経験、特に故郷での葛藤や東京での生活、そして家族との関係性は、自己を受け入れ、自身の道を切り開いていく上での様々な障壁とそれを乗り越える力強さを物語っています。白亜御前さんの活動は、アイドルという枠を超え、社会的なメッセージをも持ち得ることを示しています。