テキサス壊滅的洪水、81人死亡 早期警報と避難の疑問

米テキサス州中部を襲った記録的な大雨による壊滅的な洪水で、現地時間7日未明までに少なくとも81人の死亡が確認されました。現在も懸命な救助活動が続けられており、死傷者の正確な数は未だ不明ですが、当局は今後さらに死者数が増加するとの見通しを示しています。このテキサス州を襲った大規模な洪水災害を巡っては、適切な洪水警報が発令されていたのか、そしてなぜ事前に十分な避難が行われなかったのか、といった疑問の声が多数上がっています。特に被害が集中したカー郡では、女子キャンプ場に川から氾濫した水が激しく押し寄せ、犠牲者の中には子供28人が含まれています。

テキサス州中南部、大雨による河川氾濫と広範囲の浸水状況テキサス州中南部、大雨による河川氾濫と広範囲の浸水状況

被害の状況と当局の見解

カー郡の行政責任者であるロブ・ケリー判事は、CBSの取材に対し、これほどまでに深刻な洪水被害が発生するとは、全く予想していなかったと述懐しました。郡の行政トップとして公選されているケリー氏は、「ここで実際に起きたような事態を招くとは、一切考える理由がなかった。全く予期せぬことだった」と、その衝撃の大きさを語りました。

発生までの経緯と警報の発令

河川が氾濫する事態に発展した洪水は、3日夜から4日朝にかけて発生しました。気象学者の分析によると、通常数カ月分に相当する降水量が、わずか数時間のうちに集中して降ったことが原因です。特にグアダルーペ川は、わずか45分間で水位が約8メートルも急上昇し、堤防を越えて氾濫しました。

4日朝までの警報発令状況については、以下の点が確認されています。

  • テキサス州緊急事態管理局(TDEM)は、2日、「テキサス州の西部および中部の一部地域で洪水の脅威が高まっている」と発表し、州の緊急対応資源を動員しました。
  • 3日午後、米国立気象局(NWS)はテキサス州中部カー郡を具体的に挙げ、夜にかけて鉄砲水発生のリスクが非常に高いとする洪水警報を発表しました。
  • 現地時間4日午前1時14分、カー郡に鉄砲水警報が発令されました。
  • その後、午前4時3分にはカー郡に鉄砲水に関する緊急警報が発令され、さらに午前5時34分にはグアダルーペ川そのものについても警報が発令されています。

住民への警報伝達は十分だったか

グレッグ・アボット州知事は6日の記者会見で、テキサス州の住民は日頃から鉄砲水警報に慣れている傾向があると述べました。知事は一方で、「それでも、高さ9メートル近い水の壁が押し寄せるなど、誰もが想像もしていなかったことだ」と付け加えました。TDEM責任者のニム・キッド氏は記者団に対し、被災地には「携帯電話の電波が全く届かない、あるいは少ししか届かない地域が存在する」と指摘。「どれだけ多くの警報システムに登録していても、電波が届かない場所では、警報を受け取ることができない」と、情報伝達の困難さを説明しました。

カーヴィル市の行政担当者であるダルトン・ライス氏は、AP通信に対し、気象警報があまりに頻繁に出されることで、住民が慣れすぎてしまい、かえって危機意識が薄れる可能性に言及しました。ライス氏自身、4日午前3時30分頃にグアダルーペ川沿いをジョギングしていた際には「小雨程度」だったにもかかわらず、午前5時20分には水位が激しく上昇し、「公園から脱出するのが精一杯だった」と、状況の急変ぶりを語りました。カー郡のケリー判事は、同地域には郡が運営する包括的な警報システムが存在しない理由として、導入に多大な費用がかかることを挙げました。ケリー氏が就任するおよそ6年前、郡は竜巻警報のような洪水警報システムの導入を検討したものの、やはり費用の問題で実現に至らなかったといいます。

NWSは、カー郡における「悲劇的な人命喪失に深く悲しんでいる」としつつも、自らの対応を擁護する声明を発表しました。「オースティン・サンアントニオ地区のNWS事務所は、7月3日の午前中、緊急管理当局向けの予報説明会を実施し、午後には洪水警報を発令した。鉄砲水警報は3日夜から4日未明にかけて発令され、初期段階の準備時間を与えるため、通常基準に達する3時間以上前に警告が出されていた」と、迅速な対応を強調しました。一部のテキサス州当局者からは、NWSが降雨量を実際より少なく予測したとの批判も出ていますが、これに対し、元NWS職員らは米紙ニューヨーク・タイムズの取材で、今回のような急激かつ激烈な豪雨や嵐の急変に対する予報としては、NWSの予測は最善を尽くしたものだったと反論しています。

NWSの人員不足は影響したか

今回の悲劇が発生する以前から、ドナルド・トランプ政権下における米海洋大気局(NOAA)への予算削減が、NWSの運営に影響を及ぼすのではないかとの懸念が指摘されていました。NOAAはNWSを管轄する組織です。2026会計年度予算案には、気象研究所の一部閉鎖や予算削減が盛り込まれており、政府効率化省(DOGE)は既にNOAAおよびNWSの職員数百人を削減しました。アメリカ国内外の気象学者の間では、風や湿度、気圧などを観測する「気象観測用バルーンの放球数減少」が予報精度に悪影響を及ぼす可能性が懸念されており、予算削減により放球数が20%減少したとの指摘もあります。

ニューヨーク・タイムズは、4日朝の時点でNWSの重要ポストが空席だったと報じました。一部の専門家は、こうした人員不足が地元の緊急管理当局との連携に支障をきたした可能性を指摘しています。しかし、NWS職員組合の立法責任者であるトム・フェイ氏はNBCニュースに対し、「各地の気象予報事務所(WFO)は適切な職員数とリソースを確保しており、今回の嵐発生に向けても適切なタイミングで予報や警報を発令していた」と述べ、人員不足が直接の原因ではないとの見解を示しました。また、AP通信によると、今回の一連の嵐の予報を担当したNWS気象予報士のジェイソン・ラニエン氏は、通常2人体制の事務所で当日は5人の職員が勤務していたと話し、人員は十分だったと強調しました。

米政府の洪水対策への見解

今回の悲劇が、政府による早期警報体制の「根本的な失敗」によるものかと質問された国土安全保障省のクリスティ・ノーム長官は、「天気の予測は非常に難しい」と述べた上で、トランプ大統領が現行システムの近代化に積極的に取り組んでいると説明しました。6日の記者会見で、NWSの予算削減が今回の事態に影響した可能性について問われたノーム長官は、「皆さんの懸念を連邦政府に持ち帰る」と回答しました。ノーム長官は、NWSはこれまでも十分に機能してきたとしつつ、「誰もがもっと早く、そして正確に警報を受け取りたいと望んでいるのは承知している。だからこそ、あまりに長年放置されてきた技術の刷新に現在取り組んでいる」と述べました。さらに、降雨量の予測は困難であることを改めて認めつつも、トランプ政権は警報技術の近代化を最優先事項の一つとしていると強調しました。ノーム長官は、トランプ氏が大統領に就任した際に「技術の改善を強く望み、現在もその刷新を進めている」と述べ、「改革はまさに進行中だ」と締めくくりました。トランプ大統領自身は、11日に被災地を訪問することを検討している模様です。

参考文献

BBC News
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