進学、就職、将来設計…。現代の中高生は、かつて親世代が頼りにした成功モデルが通用しない激動の時代を生きています。人口減少、AIの急速な進化、物価高…。未来を選ぶ指針が見えにくい中、思想家の内田樹さんは「自分が生きたいように生きればいい」と語ります。答えのない時代に生きる若者へ向けた著書『どうしたらいいかわからない時代に僕が中高生に言いたいこと』から、その示唆に富む内容を一部抜粋してご紹介します。
内田樹 著『どうしたらいいかわからない時代に僕が中高生に言いたいこと』の書影、人口減少やAIなどがテーマ
日本が直面する人口減少の現実
日本が人口減少局面にあることは、広く知られています。日本は2008年のピーク(1億2808万人)以降、人口が急激に減少。厚生労働省の試算によれば、2100年には高位推計で6800万人、低位推計で3800万人、中位推計で4850万人にまで減少すると見込まれています。多分このあたりに落ち着くだろうという中位推計でも、5000万人を切る水準です。
今から80年後、皆さんのうち何人かは22世紀を迎えるでしょうが、その時の日本の総人口は5000万人を切っている可能性が高いのです。今から80年間で7600万人減る計算になり、年間約90万人のペースで人口が減少し続けています。
同時に高齢化も進み、2065年には高齢化率が38.4%に達し、3人に1人が65歳以上という超高齢社会になると予測されています。このような時代を経由して、日本の総人口が5000万人割れという、これまで経験したことのない社会が訪れるでしょう。
日本の都市部における人口減少のイメージ、多くの人々が行き交う街並み
歴史に前例のない「どうしたらいいかわからない時代」
皆さんが今、どこの学校に進学しようか、どんな職業に就こうか、あるいはどのような将来設計を立てようかなどと考えている時、一番先に勘定に入れなければいけないのは、日本はこれから急激に人口が減る社会状況にあるという事実です。
短期間にこれほど急激な人口減を経験した国は歴史上存在しません。これは世界的に見ても類を見ない変化です。そのため、この人口減少局面という未曾有の事態に「どう対処したらいいか」という成功事例も、歴史上のどこにも存在しないのです。誰も知らない、答えがない。皆さんはまさにそういう「どうしたらいいかわからない時代」へと歩みを進めているのです。
国の対応への疑問と課題
そんなこと言うとびっくりするかもしれません。なぜこれほど重大な問題なのに、みんなもっと真剣に議論しないのだろうかと疑問に思う人もいるでしょう。
残念ながら、本当に議論は深まっていません。どうしてこうなったのか原因を探り、現状はどうなっているのかを調査し、そして具体的にこの巨大な問題にどう対処するのか政策を立案するための専門的な政府機関が、今の日本政府部内には存在しないのです。この国家の根幹に関わる人口問題に対処するための司令塔がない、というのが現実です。
たしかに「少子化対策」は存在します。例えば、婚活支援を行ったり、保育所を増やしたり、教育費の無償化を進めたりといった施策が行われています。しかし、人口減少という社会構造全体の大きな変動は、こうした「目先」の政策だけでどうこうなる話ではないのです。問題の大きさと、それに対する国の対応の間には、大きなギャップが存在すると言えるでしょう。
急速な人口減少と高齢化が進み、AIや物価高など変化が加速する現代は、確かに「どうしたらいいかわからない」と感じやすい時代です。過去の成功モデルが通用しない中、将来への不安を感じる若者も少なくないでしょう。しかし、思想家・内田樹さんは、そのような時代だからこそ「自分が生きたいように生きればいい」と問いかけます。歴史に前例のない時代だからこそ、他者の評価や過去の常識にとらわれず、自分自身の価値観や内なる声に耳を澄まし、自分なりの道を切り開いていく勇気が求められているのかもしれません。答えがないからこそ、一人ひとりが探求し、創り出す自由があると言えるでしょう。
【参照元】
内田樹 著『どうしたらいいかわからない時代に僕が中高生に言いたいこと』
婦人公論.jp / Yahoo!ニュース