「史上最悪の麻薬」フェンタニルの脅威:米国での蔓延と日本への影響

合成麻薬フェンタニルは、「史上最悪の麻薬」として世界的に深刻な問題を引き起こしています。特に米国では過剰摂取による死亡者が激増しており、その脅威は日本にも及んでいます。この薬物の根絶に向け、米国は日本を含む国際社会に協力を強く訴えています。日本の当局も国内での流入や不正使用、さらには密造の可能性に対して警戒を強めています。

世界的な脅威:米国での蔓延と中毒死の現状

米国ではフェンタニルが社会の隅々まで蔓延し、危機的な状況に陥っています。グラス駐日米国大使は7日のXへの投稿で、「フェンタニルにより毎日200人を超えるアメリカ人が命を落としています。この危機的状況に対処するには、強い決意と協力体制が求められます」と述べ、その脅威の大きさを訴えました。米国におけるフェンタニルの過剰摂取による死亡者は、2022年には7万6000人以上に達しており、一部の都市では中毒者があふれ「ゾンビタウン」と呼ばれる惨状を呈しています。

供給ルートへの懸念:米国の主張と中国の反応

米国政府は、フェンタニルの大量供給ルートには中国政府が関与していると見て、強い懸念を表明しています。パテルFBI長官はFOXニュースのインタビューで、「中国共産党は賢いです。メキシコへの直送をやめ、他国や機関を経由するルートに切り替えました」と指摘し、その巧妙な手口に言及しました。米国は、中国当局がこの不正取引から利益を得ようとしていると批判し、その根絶への強い決意を示しています。しかし、中国政府は一貫して関与を否定しています。

米国におけるフェンタニル過剰摂取の深刻な状況米国におけるフェンタニル過剰摂取の深刻な状況

日本への迫りくる脅威と国内事例

フェンタニルを巡る危機は、もはや対岸の火事ではありません。日本国内にもその脅威は着実に迫りつつあります。警察庁の楠芳伸長官は、フェンタニルに関連する国内の検挙事例として、過去に合法的な医療用フェンタニルを目的外で使用した事案2件を把握していることを明らかにしました。具体的には、麻酔科医が自身に注射して使用した事例や、フェンタニル成分を含む貼り薬を交際相手に貼り付けて死亡させた事件などが報告されています。これらの事例は、フェンタニルが国内に存在し、誤用や悪用されるリスクがあることを示しています。

警察庁は、フェンタニルを含む麻薬等の違法薬物について、製造、販売、所持、使用の全てにおいて厳格に取り締まっていく方針を強調しています。

専門家の見解:フェンタニルの特性と国内密造の危険性

世界で急速に広がるフェンタニル中毒について、専門家はその特性から日本でも蔓延する危険性を指摘します。南山大学国際教養学部の山岸敬和教授は、「本当に塩でいうと、一粒二粒で死に至るということなので」と、その非常に強い毒性を説明します。この強力さと少量で済む性質から、「国外から運ぶのも楽だし、街中に流通するのも非常に大量のものが出回る可能性も高い」とし、より多くの人々が容易にアクセスしてしまうリスクが高い薬物であると警鐘を鳴らしています。

さらに、山岸教授は日本国内でのフェンタニル密造の可能性についても言及しました。「原料があれば、そこからフェンタニルを作るというのは、比較的難しいことではないという話もあったので。こういう話を聞きながら、日本国内でフェンタニルを製造して流通させようという人たちが現れないという保証はない」と述べ、国内で不正に製造・流通される危険性も否定できないとの見解を示しています。これは、国際的な対策に加え、国内での取り締まりや水際対策が喫緊の課題であることを示唆しています。

フェンタニルの脅威は、米国を中心に深刻化していますが、その強力な作用と流通の容易さから、世界各地への拡散が懸念されています。日本国内でも既に関連事例が確認されており、不正使用や国内での密造の危険性が指摘されています。この「史上最悪の麻薬」から国民を守るためには、国際社会との連携強化に加え、国内での徹底した取り締まりと予防啓発が不可欠となっています。

参照:テレビ朝日「グッド!モーニング」(2025年7月9日放送分)