現在の選挙では、耳障りの良い公約が並び、「良薬は口に苦し」ということわざは忘れ去られているかのようです。多くの政党が人気取りに走り、「痛みも伴うが大切な政策」を語る政治家は稀です。こうした風潮に対し、かつて与党の重鎮として活躍した与謝野馨氏は、著書『堂々たる政治』の中で、真の政治家に求められる厳しい条件について述べています。与謝野氏は「耳障りなことを言う。それが私の仕事である」と喝破しました。では、彼が最も重要視した政治家の条件とは一体何だったのでしょうか。
各党の党首たち:与謝野馨氏が論じる現代政治家たち
与謝野馨氏が見抜いた政治家の本質
与謝野馨氏は、第一次安倍政権で官房長官を務めるなど、長年にわたり日本の政治の中枢にいました。彼は自身の政治哲学を記した『堂々たる政治』の中で、世間が政治家に求める「清潔さ」や「演説のうまさ」といった表面的な資質ではない、より根源的な政治家の条件を提示しています。それは、国民受けを狙うのではなく、長期的な視点を持って、時には耳障りなことも国民に伝える勇気です。
第一次安倍政権で官房長官を務めた政治家・与謝野馨氏
最も重要な条件:「肝心な時に判断する力」
与謝野氏が政治家にとって何よりも重要だと語ったのは、肝心なときにものを言い、行動する力です。これは清潔さや弁舌の巧みさといった些末な事柄とは異なります。良い世の中を後の世代に残すという高い理想の下、困難な局面で自らの責任において物事を決断し、実行する行動力こそが、真の政治家に必須の能力だと与謝野氏は主張しました。彼は、普段は休息していても良いが、いざという時には国民のために決断できる気概を持つべきだとしました。
政策通として知られた与謝野馨氏
歴史に学ぶ「肝心な時の不在」
与謝野氏は、日本の歴史を振り返り、「なぜ日本はあんな愚かな戦争をしたのか」と問いかけます。そして、昭和10年代の多くの政治家には、肝心なときに発言も行動もなかったことに言及します。これは、彼らが真の政治家の条件を満たしていなかった証拠であると与謝野氏は見ていました。有権者との関係を良好に保つことも必要ですが、人気取りに終始して言うべきことを言わない政治家は、「下の下」であると厳しく断じています。
このように、与謝野馨氏は、政治家の価値は人気や表層的な能力ではなく、国の将来のために肝心なときに正しい決断を下し、勇気を持って行動する力にあると力説しました。人気取りに走る現代の政治に対し、彼の言葉は真の政治家の条件とは何かを私たちに問い直す示唆に富んでいます。
参照:
- 与謝野馨 著『堂々たる政治』
- Yahoo!ニュース / デイリー新潮 掲載記事