ブラジルへの関税50%通告、トランプ氏の政敵擁護巡り波紋 ルラ大統領は対抗措置示唆

米国ドナルド・トランプ前大統領がブラジル製品に50%の関税を課すと通告したことが、ブラジル国内で広範な波紋を広げている。特に、この関税引き上げがルラ・ダシルバ現大統領の政敵であるジャイル・ボルソナロ前大統領が起訴されたことへのトランプ氏による公然たる批判と関連付けられている点が、ブラジル政界に衝撃を与えている。物価上昇などの影響で支持率が低迷傾向にあるルラ大統領にとって、今回の通商問題は経済的、政治的な打撃となっている。

ブラジル政府の公式な反応とルラ大統領の姿勢は、トランプ氏の通告に対し断固としたものである。ルラ大統領は7月10日、地元テレビ局ヘコルドのインタビューに応じ、「我々の製品に50%の関税を課すならば、我々は米国製品に50%の関税を課す」と述べ、米国への報復措置も辞さない構えを強く打ち出した。ブラジル政府関係者の間では、トランプ氏が関税引き上げの根拠として、ボルソナロ氏の法的な扱いに対する不満を示したことに、大きな衝撃が走った。彼らはこの動きを、経済政策というよりは政治的な動機に基づくと受け止めている。

ブラジル ルラ大統領 米国との関税問題ブラジル ルラ大統領 米国との関税問題

「ブラジルのトランプ」と称されるほど過激な発言で知られるボルソナロ氏は、2022年の大統領選挙敗北後に発生した連邦議会襲撃事件などを巡り、クーデター未遂などの罪で起訴され、現在も裁判が続いている。トランプ氏はブラジル大統領府への書簡の中で、この裁判を「魔女狩り」だと強く批判しており、今回の関税通告がこの批判と連動しているとの見方が強まっている。ボルソナロ氏自身も7月10日、関税引き上げに関して自身のSNSに「私の政権下では起こり得なかったことだ」と投稿し、トランプ氏との個人的な親密な関係を改めて誇示してみせた。これは、現政権の外交手腕を暗に批判するものでもある。

ボルソナロ前大統領 トランプ氏との関係強調ボルソナロ前大統領 トランプ氏との関係強調

ブラジル外務省は7月9日、駐ブラジル米国臨時大使を2度にわたって召喚した。外務省はトランプ氏の書簡に対し、「虚偽の記述や事実誤認が含まれる」として書簡を突き返した。トランプ氏はブラジルとの貿易赤字を高関税の理由に挙げたが、米商務省の2024年の統計によれば、米国はブラジルに対して68億ドル(約1兆円)の貿易黒字を計上しており、トランプ氏の主張は事実に反していることを指摘した形だ。

来秋にブラジル大統領選挙が迫る中、ルラ大統領の支持率は物価上昇など国内経済の課題が響き、20%台と低迷している。高関税の発表を受けて、ブラジルの通貨レアルの対ドル相場は大幅に下落し、今後、ブラジルの主要産業である農業や鉱業に深刻な影響が及ぶ懸念が高まっている。こうした状況に対し、ルラ大統領がトランプ氏との関係構築を怠ってきた責任を追及する声も早くも国内で上がり始めている。

一方で、経済力を背景に他国の内政に干渉しようとするトランプ氏の手法に対しては、ブラジル国民の間でも強い反発がある。地元紙エスタド・デ・サンパウロの電子版は7月10日付の記事で、「トランプ氏はルラ氏に人気回復の絶好の機会を与えた」と指摘。トランプ氏への対抗路線を明確にすることで、かえってルラ氏の国内での立ち位置が強化される可能性にも言及しており、今後のブラジル国内の政治動向と通商問題の行方が注目されている。