ドナルド・トランプ前米大統領は、「相互関税」を巡る交渉期限を目前に控え「勝利」を自評しました。しかし、CNNは7月31日、その長期的な成果については懐疑的な見方も存在すると報じています。トランプ氏は同日、各国との関税調整交渉の結果を反映した大統領令に署名し、これは7日午前0時1分(現地時間)から発効されました。
「米国市場のレバレッジ」戦略とその成功主張
トランプ氏は過去4カ月間にわたり、一方的な高率関税を提示することで韓国、日本、欧州連合(EU)など世界中の貿易相手国との交渉を開始し、主要国との間で次々と二国間合意を取り付けました。大統領経済諮問委員会(CEA)のスティーブン・ミラン委員長はCNNのインタビューで、「一つの大きく美しい法案(減税案)の通過と貿易交渉の妥結によって、経済の不確実性が解消された。今年後半にはさらに大きな成長を期待している」と述べました。
今回の関税戦略の核心は「米国市場のレバレッジ」にあるとミラン氏は主張します。彼は「大多数の経済学者は関税を有害だと見るが、彼らは米国の持つレバレッジを過小評価している」と指摘しました。さらに、「貿易赤字が大きい米国市場は、外国の輸出国が関税を負担してでも接近せざるを得ない構造であり、その点が交渉力を高めた」と補足しています。関税賦課発表時に生じた経済的不確実性や危機感について、ミラン氏は「米国が持つ影響力の大きさを正しく把握していなかったため」と説明。「トランプ氏は米国の影響力の大きさを理解し、それを他の誰にもできない方法で活用した」と述べました。実際、トランプ氏は日本やEUとの交渉において、投資金額を自ら修正するなど、細部の調整にも深く関与していたと伝えられています。
経済指標に見る表面的「成功」
CNNによると、米国の平均実効関税率は1930年代の「スムート=ホーリー法」以来、最高水準にまで急上昇し、それに伴い関税収入も急激に増加しました。株式市場は関税に関する不確実性を乗り越え、ここ数週間で過去最高値付近を推移しています。専門家が予想していた急激なインフレはまだ発生しておらず、米国経済は比較的堅調な流れを維持しているという評価も出ています。
ドナルド・トランプ前大統領がホワイトハウスのローズガーデンで相互関税について演説し、チャートを示す様子
「勝利宣言」への懐疑論と残る課題
しかし、CNNは「トランプ氏が真の勝利宣言をするには時期尚早」とも指摘しています。現在、米連邦控訴裁判所では、大統領による関税賦課の権限に対して違憲の可能性が提起されています。中国との交渉も、11月までの90日間を猶予するという暫定合意に留まっており、事実上の膠着状態に近いと言えます。また、11時間後にようやく妥結したEUとの交渉でも、EU内部からは「受け入れがたい譲歩」(欧州議会国際貿易委員会委員長のベルント・ランゲ委員長)といった反発が相次いでいると報じられています。
消費者物価上昇と金融市場の反応
さらに、一部の消費財価格はすでに上昇し始めています。米商務省が発表した6月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比で2.6%上昇し、前月比でも0.3%上昇しました。これに伴い、米連邦準備制度理事会(FRB)は7月の政策金利を4.25~4.50%で据え置き、今後の利下げへの期待を一蹴しました。金利上昇期待が後退すると、投資家たちは安全資産である金(ゴールド)に殺到しました。ニューヨーク商品取引所(COMEX)では、金先物8月物が前日比0.1%下落の3348.60ドルで取引を終えましたが、金の現物価格は取引中に一時1%以上上昇し、日本時間1日午前2時54分には前日比0.6%高の3294.56ドルを記録しています。Jayne Metalsの副社長でチーフ金属戦略家のピーター・グラント氏はロイター通信に対し、「8月1日の関税期限が迫り、貿易の不確実性が再び頭をもたげたことで、安全資産需要がやや回復した」と語りました。
トランプ前大統領の「相互関税」戦略は、一部の経済指標で「成功」と見なされる側面がある一方で、法的・外交的・経済的に複数の未解決課題を抱えています。その真の評価は、今後の推移と長期的な視点での検証が不可欠となるでしょう。
参考文献
- CNN
- ロイター通信
- AFP=聯合ニュース