森七菜、『国宝』で見せた女優としての飛躍:短い出演時間で鮮烈な印象を残す

2024年6月に公開された映画『国宝』と『フロントライン』。豪華キャストが名を連ねる両作の舞台挨拶に登壇した女優・森七菜は、その小柄ながらも確かな存在感を放っていました。特に、吉田修一原作、李相日監督による話題作『国宝』では、物語の進行において極めて重要な役柄を演じ、女優としての新たな可能性を示しています。

森七菜のキャリアパス

2016年、地元大分でのスカウトを機に芸能界入りした森七菜は、着実にキャリアを築いてきました。2019年には新海誠監督のアニメーション映画『天気の子』でヒロイン・天野陽菜の声優を務め、一躍脚光を浴びます。その後もNHK連続テレビ小説『エール』(2020年前期)でのヒロインの妹役、そして『この恋あたためますか』(2020年/TBS系)での連続ドラマ初主演と、活躍の場を広げました。2021年に当時所属していた事務所を離れるという動きもありましたが、2023年には是枝裕和監督が総合演出・脚本を手がけたNetflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』で出口夏希と共に主演を務め、再び注目を集めます。近年は、『四月になれば彼女は』(2024年)や『ファーストキス 1ST KISS』など、映画出演が続いています。

映画『国宝』について

森七菜が出演する映画『国宝』は、公開から1ヶ月が経過してもなお、多くの観客や評論家から注目を集める作品です。作家・吉田修一の同名小説を基に、人間国宝となる歌舞伎役者・喜久雄(吉沢亮)の壮絶な半生を描いています。監督は『フラガール』『悪人』『流浪の月』といった名作を手がけた李相日。主演の吉沢亮に加え、横浜流星、渡辺謙、田中泯といった実力派俳優陣が出演しています。森七菜は、中村鴈治郎演じる歌舞伎役者・吾妻千五郎の娘、彰子(しょうこ)を演じます。

『国宝』における彰子役:森七菜が見せた変化と強さ

森七菜演じる彰子が登場するのは、物語の後半からです。二代目・花井半二郎(渡辺謙)が亡くなり、血縁のない喜久雄が歌舞伎界で孤立を深める中、彰子と喜久雄は関係を持ちます。これは、血のつながりを求める喜久雄の思惑も絡んだものでしたが、この事実を知った千五郎(中村鴈治郎)は激怒し、彰子の目の前で喜久雄を罵倒します。しかし、彰子は家を出て喜久雄と共に生きることを選択。そして二人は歌舞伎の世界から身を隠すことになります。

映画『国宝』より、森七菜演じる彰子と吉沢亮演じる喜久雄の一場面映画『国宝』より、森七菜演じる彰子と吉沢亮演じる喜久雄の一場面

ここからの彰子、そして森七菜の演技が際立ちます。各地の宴会場を転々としながら芸を披露する喜久雄が次第に精彩を欠いていくのに対し、彰子は日に日にたくましく、強さを増していきます。それまで見せていた甘く幼い少女の雰囲気から、強い意志と覚悟を秘めた女性へと変化していく様が見事に表現されています。その過程で彰子がどのような苦悩を経験したかは直接的には描かれませんが、喜久雄を見つめる瞳には、愛おしさだけでなく、不安や悲しみ、時には怒りといった複雑な感情が宿り、彼女の心情を雄弁に物語ります。それでも彼女が喜久雄の傍を離れなかったのは、彰子の中に宿る強い芯があるからでしょう。この時期の経験は、結果的に喜久雄のその後の成長に欠かせない血肉となっていきます。そんな日々を隣で支え続けた彰子は、本作において紛れもなく重要な役割を担っていました。

短い出演時間での圧倒的な存在感

上映時間3時間という大作の中で、彰子の登場シーンはおよそ20分程度と、決して長くはありません。しかし、森七菜はその限られた時間の中で、一人の女性の劇的な成長と内面の変化を、繊細かつ力強く演じきっています。喜久雄の陰で、自らの人生を選択し、困難に立ち向かう彰子の姿は、観る者に深い印象を残します。森七菜は、この短い出演時間の中で、作品世界に不可欠なキャラクターとして圧倒的な存在感を確立しました。

結論

映画『国宝』で彰子役を務めた森七菜は、その短いながらも鮮烈な登場を通じて、女優としての確かな実力と成長ぶりを証明しました。甘さの奥に隠された芯の強さ、そして変化を遂げる女性の複雑な感情表現は、観客に強いインパクトを与えます。この重要な役どころを見事に演じきったことは、今後の森七菜の女優としてのさらなる飛躍を強く予感させるものです。

参照: https://news.yahoo.co.jp/articles/23233c2fc9fb5fb2df9c04dade6bc12ea3c37486