大ヒット中の映画「国宝」は、原作の吉田修一による同名小説(朝日新聞出版)から、歌舞伎の世界における「血筋」と「本筋」の生きざまを鮮烈に描いています。7歳から舞台に立つ若手歌舞伎俳優の中村米吉さん(32)が、自身の歩みと重ね合わせ、映画の衝撃、そしてこれからの歌舞伎界について語った【前編】に続く独占インタビューです。歌舞伎役者に脈々と流れる「血」と、舞台に立つ「芸」の真髄に迫ります。
映画「国宝」が描く歌舞伎の「血」と「芸」
映画「国宝」には、任侠の一門に生まれながら歌舞伎界に入った立花喜久雄(吉沢亮)と、上方歌舞伎の名門・花井半二郎(渡辺謙)の実の息子である大垣俊介(横浜流星)という二人の歌舞伎役者が登場します。米吉さんは自身を俊介側の人間と捉え、「京鹿子娘道成寺」の出番前に半二郎が俊介にかけた「お前には血がある。役者の血が守ってくれる」という言葉に強く共感すると語ります。自分もいざ大役を勤める際、先祖に思いを馳せ、同じ血が流れていることを心の支え、ある種の拠り所にしてしまう時があると明かしました。
2025年11月に明治座で「藤娘」の藤の精を演じる歌舞伎俳優・中村米吉。映画「国宝」で描かれる血筋と芸について語る。
一方、半二郎が喜久雄に語る「お前には芸がある。振りを忘れても、体は覚えている」という言葉も印象的です。しかしその後、半二郎の代役として「曽根崎心中」でお初を演じることになった喜久雄が震える声で語る冒頭の言葉は、歌舞伎の「世襲」の現実を象徴する場面でしょう。米吉さんは、もちろん稽古を重ね、教わったことを大切に舞台を勤めることが大前提としつつも、伝統を継ぐ者の葛藤を語ります。
歌舞伎「祇園祭礼信仰記 金閣寺」で雪姫を演じる中村米吉の美しい姿。伝統芸能における役者の成長と継承を示す。
歌舞伎役者の日常:特別な「習い事」として
米吉さん自身、7歳から舞台に立ってきましたが、それを特別なこととは感じなかったと言います。周りの友人が「今日はピアノだから」「サッカー教室がある」「塾に行かなきゃ」と話すのと同じように、自分にとってはそれが日本舞踊やお囃子だったというだけのこと。むしろ、自分よりも多く習い事をこなしていた子もいたはずで、習い事がある日は友達と遊べないのは、みんな同じだったと、歌舞伎役者としての日常を垣間見せます。
映画「国宝」を通して、中村米吉さんが語る歌舞伎の「血筋」と「芸」は、伝統芸能が持つ深遠なテーマを浮き彫りにします。次世代を担う歌舞伎役者たちの不断の努力と、脈々と受け継がれる「血」が織りなす歌舞伎の未来に、私たちは期待を寄せずにはいられません。