【千夜一夜】世界は塀や壁ばかり 佐藤貴生





イラクの国旗を掲げる反政府デモの参加者ら=11月30日、バグダッド(ロイター)

 反政府デモで400人以上が死亡したイラクは無差別テロの爆発がしばしば起きる。首都バグダッドで昨秋、泊まったホテルは外周を高いコンクリートの「塀」が取り囲み、敷地内でも自動小銃を持った警備会社の人たちが警戒していた。市民はテロの恐怖と背中合わせで暮らしている。

 住んでいるエジプトの首都カイロでも、ドイツなど欧州諸国の公館の多くがコンクリの塀で囲まれている。イスラム過激派などの攻撃を警戒してのことだ。

 一方、中東の「壁」といえばイスラエルが建設した分離壁がよく知られている。ユダヤ人へのテロを防ぐため、パレスチナ人の居住区域を高いコンクリの壁で隔てて往来を制限した。

 トルコ南東部のシリア国境沿いの道路を車で走った際には、シリア内戦後に建設されたというフェンスが延々と続いていた。シリアからの難民や過激派の流入を阻止するためだ。

 米紙USA TODAY(電子版)は昨年、第二次大戦終了時に世界に7カ所しかなかったこうした壁やフェンスが、少なくとも77カ所に増えたとの記事を掲載。2001年の米中枢同時テロ以降、激増したという。

 民族対立やテロ、難民流出が一向に収まらず、景観などに構っていられない実態を雄弁に物語る。人間とは何と愚かな生き物だろう。(佐藤貴生)



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