マンション麻雀の深層:元雀ゴロが見た超高レート賭博の実態と麻雀の変容

プロ麻雀リーグ「Mリーグ」の台頭により、特に若い女性層を中心に新たなファンを獲得し、活況を呈しているかに見える現代の麻雀業界。しかし、その一方で「麻雀はお金を賭けてこそ」という根強いイメージもまた、いまだに多くの人々の間に存在します。フィクション作品でしばしば描かれる「マンション麻雀」とは、文字通りマンションの一室などで密かに行われる高レートの賭け麻雀を指します。これは超高レートの違法賭博であり、その閉ざされた性質から、麻雀愛好家の間ですらその実態はほとんど知られていません。

マンションの一室で麻雀を打つ男性3人。高レート賭博の雰囲気を伝える写真。マンションの一室で麻雀を打つ男性3人。高レート賭博の雰囲気を伝える写真。

今回は、そんなマンション麻雀の現場に6年間にもわたり出入りした経験を持ち、『ルポ マンション麻雀 ‐バブル期から脈々と続く超高レート賭博の実態』(鉄人社)の著者である福地誠氏に、その特異な世界における勝負哲学や、現代麻雀の世界的な動向について話を伺いました。

東大卒、就職失敗から麻雀の世界へ

福地氏が初めて麻雀に出会ったのは中学3年生の頃、本を読んでルールを覚えたのがきっかけだといいます。ただし、10代の頃は対戦相手が少なく、本格的に打ち込むことはあまりありませんでした。大学時代も麻雀よりもクラシック音楽やバックパッカー旅行などに熱中していたそうです。東京大学教育学部を8年かけて卒業後、就職活動に全滅したことが転機となりました。雀荘でアルバイトをしながら麻雀漬けの日々を送っていた頃に、いわゆる“デキちゃった結婚”を経験。これを機に、麻雀関連の出版で有名な竹書房の採用試験を受け、幸運にも麻雀要員としての枠で採用されたとのことです。

雀ゴロとしての収入と「稼げる麻雀」の変遷

賭け麻雀だけで生計を立てていた時期もあり、年間で最大300万円程度の収入を得ていたと福地氏は語ります。しかし、その金額をもってしても、自分には真の「雀ゴロ」としての才能はなかったと感じているそうです。現代では「雀ゴロはいなくなった」「麻雀では稼げない」と言われることもありますが、福地氏の知人には数年で億単位を稼いだ者が3人もいるといいます。また、氏の著書には、会社員のフリをして何十年も賭け麻雀で妻子を養い、一戸建てまで購入した人物が登場します。その話を聞いた際、現代日本にそのような生活を送る人がいるのかと驚きを隠せなかったと語っています。

300万円という年収は十分に大きな金額に思えますが、阿佐田哲也氏や畑正憲氏のような時代の「雀ゴロ」は、今ではほとんど見られないのでしょうか。福地氏は、かつての麻雀は「文系のゲーム」であり、並外れた勝負勘を持つ者が支配する世界だったのに対し、現代は完全に「数字だけの理系のゲーム」に変貌したと指摘します。ルール自体は変わっていないものの、様々な統計データが取得可能になったことで、「流れ派」(場の流れや運勢を重視する打ち方)の打ち手たちは軒並み姿を消したとのことです。

ルポ「マンション麻雀」の著者である福地誠氏。長年の取材経験を持つ専門家。ルポ「マンション麻雀」の著者である福地誠氏。長年の取材経験を持つ専門家。

データ麻雀を必勝法とした雀ゴロ人生

全員がデータに基づいて麻雀を打つようになると、一人だけが大きく勝ち続けることは難しくなるのでしょうか。福地氏は、自身の「必勝法」は、自分より若い世代のプレイヤーからデータの使い方を学び、その知識を感性で打っている年長のプレイヤー相手に活用して勝ちを積み重ねてきたことだと明かします。ひたすらデータを駆使して生計を立ててきたのが、氏の「雀ゴロライフ」だったのです。これは、現代における賭け麻雀の世界が、かつての直感や経験に頼るスタイルから、より論理的で統計に基づいたアプローチへと移行している現実を浮き彫りにしています。

まとめ

Mリーグ人気の高まりとは対照的に、水面下で脈々と続く「マンション麻雀」という高レート違法賭博の世界。福地誠氏の経験談からは、その実態の一端と、現代麻雀が「流れ」から「データ」へと劇的に変化した様が見て取れます。かつては勝負勘が重要だった世界は、今や統計と論理が支配する「理系ゲーム」となり、それは賭け麻雀の世界にも確実に影響を与えています。福地氏のようにデータを武器にする者も現れ、「雀ゴロ」という存在の定義すら変わりつつあるのかもしれません。

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