なぜ東大・京大生はコンサルをめざすのか?人気企業の実態と将来への示唆

近年、東京大学や京都大学といった国内最難関大学の学生たちの間で、コンサルティングファームへの就職が圧倒的な人気を集めている。かつては官僚や研究職、あるいは総合商社などが主流だったエリート学生の進路において、ボストン コンサルティング グループ(BCG)やアクセンチュアといった名だたるコンサルファームが、今や常に上位にランクインしているのだ。ある最新の就職人気企業調査では、上位10社のうち実に7社がコンサルティングファームという驚きの結果が出ている。この現象は、単なる一過性のブームなのか、それとも日本の高学歴層のキャリア観や、産業界の構造変化を映し出す、より深いトレンドなのだろうか。いったい何が、優秀な学生たちをこれほどまでにコンサル業界へと惹きつけるのだろうか。高年収の具体的な仕組み、厳しくも独特な企業文化、そして業界が抱える喫緊の課題まで、大手コンサルファームの現役社員らへの徹底取材を通じて見えてきた、コンサル業界の「光と影」、そして人気企業の知られざる実状に迫る。本稿では、この短期集中連載の第1回として、コンサル業界の基礎知識から、エリート学生が魅了される理由の深層、そしてその先に待ち受ける現実の一端を明らかにする。

東大・京大生に人気の就職先であるコンサルティングファーム東大・京大生に人気の就職先であるコンサルティングファーム

コンサルティング業界は、そのサービス内容や得意とする領域によって、大きく三つのカテゴリーに分けられるのが一般的だ。第一に挙げられるのが「戦略系」コンサルファームである。これらのファームは、企業の経営戦略、事業戦略、M&A戦略といった、企業全体や事業の根幹に関わるトップマネジメントレベルの意思決定を支援することを主眼とする。高度な分析力、論理的思考力、そして限られた情報から本質を見抜く洞察力が求められ、プロジェクト期間は比較的短く、少人数の精鋭チームで取り組むことが多い。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ボストン コンサルティング グループ(BCG)、ベイン・アンド・カンパニーといったファームが代表例として知られている。彼らは、難解な問題に対する革新的な解決策を提示することで、クライアントの経営層に大きな影響を与えることを目指す。

第二に、「総合系」コンサルファームがある。こちらは戦略立案にとどまらず、立案された戦略の実行支援、業務改革、ITシステムの導入・最適化、組織人事、リスクマネジメント、M&A後の統合(PMI)など、企業の幅広い課題に対して end-to-end でサービスを提供する。デロイト トーマツ コンサルティング、PwCコンサルティング、EYコンサルティング、KPMGコンサルティングといった、いわゆる「Big 4」と呼ばれる監査法人系のコンサルティング部門や、アクセンチュアなどがこのカテゴリーに含まれる。戦略系に比べて大規模なプロジェクトが多く、様々な専門性を持つ多数の人員が関わる。近年のデジタル化の進展に伴い、ITコンサルティングやデジタルトランスフォーメーション(DX)支援の重要性が増しており、総合系ファームはこれらの領域で特に強みを発揮している。

第三に、「シンクタンク系」コンサルファームが挙げられる。これらはもともと研究機関や親会社(金融機関や証券会社など)の情報収集・分析部門から派生したものが多く、政策提言、市場調査、特定産業に関する専門性の高い調査・研究、公共セクターへのコンサルティングなどを得意とする。野村総合研究所(NRI)、三菱総合研究所(MRI)、日本総合研究所(JRI)などが代表的である。アカデミックな知見や豊富なデータに基づいた客観的で詳細な分析に強みがあり、社会全体のトレンドやマクロ経済の動向を踏まえた提言を行うことが多い。公共政策への影響力も持つ。

コンサルティングファームの主要な分類:戦略系、総合系、シンクタンク系コンサルティングファームの主要な分類:戦略系、総合系、シンクタンク系

これらの多様なコンサルティングファームの中で、なぜ特に戦略系や総合系の大手ファームが、東大生や京大生といった最優秀層の学生から絶大な支持を得るようになったのだろうか。その理由は一つではない。まず挙げられるのは、やはり「高年収」の魅力である。コンサル業界、特に大手ファームは、初任給から他の業界と比べて高く設定されている場合が多く、その後の昇給カーブも急峻であるとされる。数年で同年代の平均年収を大きく上回ることも珍しくなく、成果主義の文化の中で、若いうちから経済的な成功を手にしたいと考える学生にとって、非常に魅力的な選択肢となっている。この高年収は、彼らが提供する専門知識や課題解決能力への対価であり、長時間労働や高いパフォーマンス要求の裏返しでもあるが、経済的な安定と将来への投資という意味で、強力な動機付けとなっている。

次に、「圧倒的な成長機会」と「キャリアの選択肢の広さ」が挙げられる。コンサルタントは、様々な業界の多様な企業の、複雑な経営課題に短期間で集中的に取り組む。これにより、一般的な事業会社では得られないほど短期間で、幅広いビジネス知識、高度な分析スキル、問題解決能力、コミュニケーション能力などを習得できる。プロジェクトごとに新しいクライアント、新しい業界、新しい課題に直面するため、常に学び続け、自己をアップデートしていくことが求められる環境だ。このような高速な成長環境は、知的好奇心旺盛で自己実現意欲の高いエリート学生にとって、非常に刺激的である。また、コンサルティングの経験は、その後のキャリアパスを大きく広げる。コンサルタントとして経験を積んだ後、事業会社の経営企画部門や新規事業開発部門、PEファンドやVC、スタートアップの経営層、さらには独立してコンサルタントを続けるなど、多岐にわたる選択肢が開ける。これは「つぶしがきく」キャリアとして、変化の激しい現代社会において魅力的に映る。

さらに、「社会へのインパクト」と「仕事のやりがい」も重要な要素である。コンサルタントは、企業の経営層に対して提言を行い、その後の企業の戦略や方向性に大きな影響を与える可能性がある。自分が関わったプロジェクトの結果が、社会や経済に目に見える形で貢献するという経験は、大きな達成感とやりがいをもたらす。特に、社会的な課題や公共性の高いプロジェクトに関わる機会もあり、優秀な頭脳を社会貢献に活かしたいと考える学生にとって、魅力的な働く場となり得る。加えて、コンサルファームには優秀な人材が集まる傾向があるため、刺激的な同僚たちと共に働く環境も、優秀な学生にとっては重要な魅力となっている。切磋琢磨し合える仲間との出会いや、共に難題に立ち向かう経験は、彼らの知的な欲求を満たし、人間的な成長も促す。

2027年卒東大・京大生 就職人気企業ランキング上位にコンサルファームが多数2027年卒東大・京大生 就職人気企業ランキング上位にコンサルファームが多数

しかし、コンサル業界は「光」ばかりではない。「影」の部分、すなわち独特の企業文化や厳しい現実も存在する。最もよく知られているのは、やはり長時間労働の常態化である。プロジェクトの納期やクライアントの要望に応えるため、深夜まで及ぶ残業や休日出勤が頻繁に発生する。体力的にも精神的にもタフさが求められる環境であり、ワークライフバランスを重視する人にとっては厳しい側面がある。また、常に高いパフォーマンスを求められるプレッシャーも大きい。短期間で成果を出すことが厳しく評価されるため、常に緊張感を持って業務に取り組む必要がある。これは、コンサルタントの成長を促す反面、過度なストレスにつながることもある。高い離職率も業界の特徴の一つであり、特にジュニアレベルでは、厳しい環境に耐えきれず早期に転職するケースも少なくない。

さらに、コンサルタントの仕事はあくまで「提言」であり、その実行責任はクライアント側にある。どれだけ優れた戦略を立案しても、クライアントがそれを実行できなければ、目に見える成果には繋がらない。この「絵にかいた餅」になる可能性や、クライアントとの関係性構築の難しさに悩むコンサルタントもいる。また、常に新しい知識やスキルを吸収し続けなければならないというプレッシャーは、継続的な自己投資や学習を怠れない環境を生み出す。これは成長機会であると同時に、弛まぬ努力を要求される負担でもある。

コンサルティング業界自体もまた、変化と課題に直面している。デジタル技術の進化により、従来のコンサルティング手法だけでは対応できない複雑な課題が増加している。AIやデータサイエンスといった先端技術を活用したコンサルティングサービスの開発・提供が急務となっている。また、働き方改革の進展や若手社員の価値観の変化に対応するため、長時間労働の是正や多様な働き方の導入といった、企業文化や人事制度の変革も求められている。優秀な人材の採用競争は激化しており、彼らを惹きつけ、さらに定着させるための魅力的な働く環境づくりは、各ファームにとって喫緊の課題となっている。

東大・京大生がコンサル業界に殺到する現象は、単に「稼げるから」という理由だけでなく、高度な専門性を追求できる環境、若いうちから裁量を持って働ける可能性、そしてその後の多様なキャリアパスといった要素が複合的に作用した結果と言えるだろう。しかし、その華やかなイメージの裏には、長時間労働、厳しいプレッシャー、常に自己研鑽を求められる現実も存在する。「光」と「影」の両面を理解した上で、学生たちは自身のキャリアを選択しているのだろうか。あるいは、コンサル業界がその魅力を維持しつつ、いかに「影」の部分を改善し、持続可能な成長を実現していくのか。この人気トレンドは、日本の最優秀層のキャリア選択の未来、そしてコンサルティング業界自体の今後を考える上で、多くの示唆に富んでいる。

参照:週刊新潮 2025年7月17日号