「失われた30年」の爪痕深く 就職氷河期世代の現実~月13万円で生活、食料配布と質屋頼み~

5月中旬の土曜日、横殴りの雨が降る悪天候の中、東京都新宿区の都庁前には約700人もの人々が列をなしていました。この日実施されていたのは、NPO法人などが主催する無料の食料配布でした。列の後方には、都内に暮らす鈴木孝さん(56)=仮名=の姿がありました。数百円の電車賃も払えず、一人暮らしの自宅からビニール傘を差して4時間かけて歩いてきたため、到着は配布開始の直前になったといいます。鈴木さんは1990年代前半から2000年代前半にかけて社会に出た「就職氷河期世代」の一人です。この世代は1700万~2000万人とも言われ、未だに不安定な生活を強いられている人が少なくありません。彼らの現役世代は、日本経済が停滞した「失われた30年」と丸ごと重なります。会社の倒産や派遣切りなどを経験してきた鈴木さんは、「とにかく目の前の生活を楽にしてほしい」と切実に訴えます。参院選(20日投開票)を前に、各党が様々な支援策を掲げていますが、彼らが直面する困難の解決は容易ではありません。

東京都庁前で食料配布の準備をするNPO法人などのスタッフやボランティアたち東京都庁前で食料配布の準備をするNPO法人などのスタッフやボランティアたち

月13万円の生活保護受給、食料配布とスマホ質入れで凌ぐ

リュックを背負い、トートバッグを肩に掛けた鈴木さんは、スタッフからレトルトご飯、野菜、水などが入ったビニール袋を受け取りました。その後、再び列の最後尾に並びましたが、到着が遅かったため2袋目を受け取ることはできませんでした。それでも、日焼けした顔には安堵の笑みがこぼれていました。「最近はコメが高くてとても買えない。本当にありがたいです」。およそ2年前、持病のヘルニアが悪化して手に力が入らなくなり、派遣の仕事を辞めざるを得なくなりました。現在は月額約13万円の生活保護を受給していますが、家賃や光熱費などを差し引くと手元に残る金額はわずかです。

「業務用スーパーで買った27円の袋麺3つや、88円の食パン1斤で3食を凌ぐこともざらです。都内各地で開かれる食料配布にも頻繁に出向いています」。どうしても家計がやり繰りできない月は、スマートフォンを質屋に持ち込み、一時的に7000円~8000円を借りて生活費に充てているといいます。就職氷河期世代が抱える経済的な困窮の現実がここにあります。

NPO法人などが配布する食料NPO法人などが配布する食料

就職活動期にバブル崩壊、入社した会社は突然の倒産

鈴木さんは、人口が多い「団塊ジュニア世代」(1971~74年生まれ)より少し上の1968年生まれです。経済的に余裕のある両親(いずれも他界)のもとで育ち、子どもの頃に生活に困窮した記憶はありません。高校は大学の付属校だったため、エスカレーター式に進学し、大学をストレートで卒業していれば、売り手市場の「バブル入社組」の一員になっていたはずでした。ところが、大学の倍率が予想以上に高く、2浪の末、1989年に別の私立大学に入学しました。入学当初はまさにバブル経済の絶頂期で、大学構内には採用募集の張り紙が所狭しと並んでいました。「人手不足だったのか、初任給30万円の企業も結構あった。働き口はいくらでもあると思っていました」と当時を振り返ります。

しかし、鈴木さんが就職活動を始めた頃、バブル経済が崩壊しました。そして、その後10年ほど続くことになる、厳しい「就職氷河期」の入り口に立つことになったのです。文部科学省の学校基本調査によれば、4年制大学を卒業した人の就職率は、バブルが崩壊した1991年(81.3%)から急降下し、2000年から2005年には50%台にまで落ち込みました。鈴木さんは18社に応募し3社から内定を得ましたが、いずれも業績悪化を理由に取り消しとなりました。慌てて就職活動を再開し、なんとか静岡県にある家具輸入商社に正社員として入社できましたが、その会社も入社3年目に突然倒産してしまいます。「多角経営の末、社長が夜逃げしたことは後から知りました」と、不運な社会人スタートを語りました。就職氷河期世代は、このように雇用の不安定さや会社の経営悪化による影響を直接的に受けやすい状況に置かれていました。

大学生が殺到した合同企業説明会大学生が殺到した合同企業説明会

就職氷河期世代は、バブル崩壊後の厳しい経済状況下で社会に出ざるを得ず、正規雇用に就けなかったり、就職できても不安定な職を転々としたりする人が少なくありませんでした。彼らが中核的な働き手となるべき「失われた30年」に、十分なキャリア形成や資産形成ができなかった結果、50代となった今、貧困や孤立といった困難に直面しています。食料配布に並ぶ鈴木さんの姿は、この世代が抱える問題の深刻さを浮き彫りにしています。政治や社会全体で、彼らの「目の前の生活」を支え、長年の困難を和らげるための具体的な取り組みが急務となっています。

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