アニメ聖地移住の現実:『ユーフォ』聖地・宇治で氏子総代になった男性の挑戦

アニメの舞台となった場所を訪れる「聖地巡礼」は、既に多くの観光客に親しまれるスタイルとなりました。近年、この動きはさらに進み、単に訪れるだけでなく、アニメ聖地移住する人々が増加しています。こうした人々は、アニメがきっかけで地域に深く魅了され、居住を決意しています。例えば、『ラブライブ!サンシャイン!!』の舞台として知られる静岡県沼津市は、アニメファンを積極的に受け入れ、多くの移住者を引きつけています。

『響け!ユーフォニアム』の舞台、京都府宇治市へ

京都アニメーションが制作し、高い人気を誇る『響け!ユーフォニアム』(以下、ユーフォ)の舞台である京都府宇治市も、聖地移住の顕著な例が見られる場所です。岐阜県瑞浪市出身の小栗龍太さん(28歳)は、『ユーフォ』に登場するキャラクター、義井沙里の熱心なファンであり、アニメを通じて宇治市に移住を決めた一人です。しかし、彼の関わりはそれだけにとどまりませんでした。彼は、アニメで沙里の実家として描かれた宇治市の許波多(こはた)神社の氏子総代にまでなったのです。聖地の住人となっただけでなく、アニメの舞台となった神社と深いつながりを持つことになった小栗さんに、聖地に移住することの現実について話を聞きました。

アニメへの情熱が宇治への移住を後押し

小栗さんが『ユーフォ』と宇治に関心を持ったのは、アニメの視聴がきっかけでした。1期、2期と視聴を重ねるうちに作品に没頭し、「聖地巡礼」のために宇治を訪れることを思い立ちます。初めて宇治を訪れた際の印象は非常に良く、その後一時期は毎週のように岐阜から通うほどでした。一度アニメから離れた時期があったものの、劇場版や3期の開始を機に再び深くのめり込みます。彼は、京アニ作品の特徴であるリアルな背景描写に魅力を感じ、宇治の町並みがアニメそのままだったことに感動しました。訪れるたびに、まるで登場人物たちが暮らす町を訪れているかのような感覚になり、宇治という場所そのもの、その空気感も含めてファンになっていったのです。昨年はほぼ毎週のように宇治に通い、いつかこの町に住みたいという思いが強くなりました。

響けユーフォニアムの聖地である京都府宇治市の宇治橋周辺の町並み響けユーフォニアムの聖地である京都府宇治市の宇治橋周辺の町並み

許波多神社との出会いと氏子総代への道

『ユーフォ』において、キャラクターである義井沙里の実家という設定になっているのが許波多神社です。小栗さんは宇治を訪れるたびにこの神社にも通っていました。頻繁に足を運ぶうちに宮司と知り合いになり、「神社のためにお手伝いできることはないか」と尋ねたそうです。その熱意が伝わり、7〜8月頃には崇敬者有志という立場で、神社の行事などを手伝うようになりました。そして10月の秋祭りの際、宮司から氏子総代という地域の住民が務める役職があることを知らされます。神社の力になりたい一心で氏子総代になりたいと申し出たところ、ぜひお願いしたいという承諾を得ることができました。アニメで沙里の実家という設定である許波多神社のために活動できることは、彼にとって非常に光栄なことでした。この経験を通じて、移住して本格的に神社活動に貢献したいという思いが固まります。

響けユーフォニアムの聖地、許波多神社の氏子総代となった小栗龍太さんが乗るアニメ仕様の車響けユーフォニアムの聖地、許波多神社の氏子総代となった小栗龍太さんが乗るアニメ仕様の車

移住と新しい仕事への挑戦

しかし、氏子総代は原則としてその地域の住民でなければ務めることができません。この条件を満たすため、小栗さんは岐阜での仕事を辞める決断をしました。そして、京都で新しい職を探し、空調設備の仕事に就きました。これは以前とは異なる職種でしたが、新しいことに挑戦するという決意を込めて選んだといいます。宇治市内での住居探しは困難を極めましたが、氏子総代として地域に貢献したいという強い思いから、必死に住まいを見つけました。こうして、彼は単なるアニメファンから、アニメ聖地である宇治市の、そして許波多神社の住民、さらには神社の重要な役職を担う存在となったのです。

小栗龍太さんのケースは、アニメ聖地への関わりが、単なる趣味の範疇を超え、その地域社会への深い貢献と結びつく可能性を示しています。アニメがきっかけで生まれた情熱が、移住という大きな決断を促し、さらには伝統的な地域の担い手となる氏子総代という役割へと繋がったのです。これは、アニメツーリズムや聖地巡礼が、地域に新たな住民と活力を呼び込む一例と言えるでしょう。

参考資料:
Yahoo!ニュース / デイリー新潮