イエメン死刑判決のインド人看護師ニミシャ・プリヤさん:迫る執行と家族の減刑への闘い

内戦が続くイエメンで死刑判決を受けたインド人看護師ニミシャ・プリヤさん(Nimisha Priya)の家族は、差し迫った死刑執行を減刑させるべく時間との激しい闘いを続けています。この人道的な事件はインドの主要メディアでも連日大きく報じられ、国際社会の注目を集めています。プリヤさんは2020年にイエメンの首都サヌアの裁判所から、イエメン国籍のビジネスパートナーを殺害した罪で死刑判決を受けました。被害者の遺体は2017年に貯水タンクで発見されていました。首都を実効支配する反政府武装組織フーシとインド政府の間には正式な外交関係が存在しないため、家族や支援者による減刑への交渉は極めて困難な状況に直面しています。

イエメンで死刑判決を受け、減刑を求めるインド人看護師ニミシャ・プリヤさんの肖像イエメンで死刑判決を受け、減刑を求めるインド人看護師ニミシャ・プリヤさんの肖像

国際社会からの懸念と「血の代償(ディヤ)」の可能性

死刑執行が目前に迫る中、インドのメディアはこの問題を集中的に報道しており、多くの人権団体もフーシ(Houthi)に対し、死刑を執行しないよう強く求めています。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは14日、「死刑は究極の残酷で非人道的かつ品位を傷つける刑罰である」と声明を発表し、すべての死刑執行の即時停止と、プリヤさんの判決を含む全死刑判決の減刑を訴えました。

今回の事件でプリヤさんの家族を支援する社会福祉活動家サミュエル・ジョセフさんによると、イエメンのイスラム法では、被害者の遺族が「ディヤ(Diyya)」と呼ばれる賠償金を受け取って加害者を赦免した場合、死刑囚が恩赦を与えられる可能性があります。1999年からイエメンに在住するインド人であるジョセフさんは、協力者の存在とインド政府の動きに言及し、「私は楽観的である」と希望を語っています。

事件の背景と裁判の不透明性

ジョセフさんによれば、プリヤさんはビジネスパートナーに致死量の鎮静剤を注射したとされています。しかし、プリヤさんの家族は、この行為は自衛のためであったと主張しています。内戦勃発後、ビジネスパートナーはプリヤさんに暴力を振るい、パスポートを奪っていたといいます。さらに、裁判はアラビア語で行われ、プリヤさんに通訳は付かなかったと報じられており、審理の透明性に対する懸念が示されています。

釈放に向けた支援活動と政府の介入

活動家や弁護士のグループは、プリヤさんの釈放のための資金集めと被害者家族との交渉を目的として、2020年に支援団体を設立しました。同団体のメンバーである活動家ラフィーク・ラブタールさんによると、これまでに約500万ルピー(約860万円)が集められましたが、「インド大使館も公館も存在しない国での交渉は極めて困難を伴う」と語っています。

最近では、プリヤさんの地元であるインドのケララ州の政治家らが、インドのナレンドラ・モディ首相に対し、この事態への介入を要請しています。ケララ州首相はモディ首相宛ての書簡で、「これは同情に値する事案である」として、プリヤさんへの支援を強く訴えました。

混乱するイエメン情勢とプリヤさんの苦難

プリヤさんは2008年にイエメンへ渡り、現地の病院で看護師として働き始めました。2014年には夫の支援を受け、家族や友人から資金を借り入れてサヌアに自身のクリニックを開業しました。夫のトミー・トーマスさんはCNNの取材に対し、「私たちは普通の幸せな結婚生活を送っていた。妻はとても愛情深く、勤勉で、何事にも誠実だった」と、プリヤさんの人柄を語っています。

しかし、プリヤさんの希望は、数十年にわたってイエメンを苦しめてきた政治的紛争と混乱によって打ち砕かれました。2014年にフーシが首都を制圧し、国際的に承認されサウジアラビアの支援を受けていた政府を追放しました。その後、2015年までに紛争は破滅的な内戦へと発展し、イエメンは分裂し不安定な状況に陥りました。治安情勢の悪化により、外国人にとってイエメンでの生活と仕事はますます困難になり、多くの外国人が退避する中で、プリヤさんは自身の事業を守るために留まることを決意しました。アムネスティ・インターナショナルによると、2024年に世界で死刑執行が最も多かった上位5カ国にイエメンが含まれており、フーシ支配地域でも少なくとも1件の執行が確認されていますが、実際にはさらに多い可能性が指摘されています。

家族の献身的な支えと帰国への願い

プリヤさんの母親は、裁判費用を捻出するために自宅を売却し、減刑交渉のために1年以上前からイエメンに滞在し続けています。一方、夫のトーマスさんと娘は、インドのケララ州でプリヤさんの帰国を待ち続けています。夫のトーマスさんは、「妻はとても優しく、愛情深い。だからこそ、私は彼女と共にあり、最後まで支え続ける」と、深い愛情と支援の決意を語っています。

この事件は、イエメンの複雑な内戦状況と人道問題が絡み合う中で、一人の女性の命が危機に瀕している現実を浮き彫りにしています。国際社会とインド政府のさらなる介入が、プリヤさんの命を救う鍵となるでしょう。


参考文献: