日本の食品安全は世界最高水準の科学的基盤を有しているにもかかわらず、消費者の不安は大きい。参院選向けに発表された各政党の政策を見ると、一部の政党がこの「不安のギャップ」を政治的に利用し、科学的に根拠のない政策を提案している実態が見えてくる。これらの政策は、科学に対する国民の信頼を損ない、真の公衆衛生と科学的リテラシーの向上に逆行するものである。
れいわ新選組:ポピュリズム的な科学の拒絶
れいわ新選組は、マニフェストにおいて「農薬・添加物の規制強化」を掲げている。
この政策は、現行の規制が不十分であるという誤った前提に基づいている。現在の規制は2003年に制定された食品安全基本法に基づいている。その核心は、科学的独立性と客観性を確保するために、「リスク評価」と「リスク管理」の分離原則を導入した点にある。
リスク評価(食品健康影響評価)は、内閣府に設置された独立機関である食品安全委員会が担当し、リスク管理は、厚生労働省や農林水産省といった行政機関が担当する。食品安全基本法第12条(施策の策定)には「食品健康影響評価が行われたときは、その結果に基づいて、これが行われなければならない」と書かれている。リスク管理措置が政治的圧力に左右されることを防ぐための条文である。食品安全委員会が残留農薬についても食品添加物についても、科学的根拠に基づいてリスク評価を行い、これに基づいてリスク管理機関が厳しい規制を実施しているのだ。
れいわ新撰組は食品安全委員会の評価の欠陥を指摘しない限り、「規制強化」という呼びかけは内容のない選挙スローガンに過ぎない。根拠のない不安に基づいて規制強化を提案することは、単に「非科学的」であるだけでなく、日本国民を守るために構築された法制度の基本原則そのものに反する行動をとっていることになる。
この政党の戦略は、国民を毒する腐敗したシステム(政府と大企業)から人々を守る擁護者として自らを位置づけることのようだ。「規制強化」というメッセージは単純明快で、理解するのに科学的リテラシーを必要とせず、国民の不安に直接訴えかける。これは典型的な「我々対彼ら」という対立構造の物語である。