近年、日本の政治シーンに台頭してきた参政党は、その独自の存在感を増している。従来の政党とは一線を画す資金調達方法と支持層の特性は、彼らの躍進の鍵を握るとされる。特に、収入の大部分を個人からの寄付や党費に依存する構造は注目に値する。本稿では、参政党の政治資金収支報告書から見えてくるその独自性と、支持層に広がる「オーガニック」な関心との意外な繋がりについて、詳細に分析する。
個人からの収入が約9割を占める独自の資金構造
参政党が国政政党としての要件を満たした2022年の参院選以降、その政治資金収支報告書には興味深い事実が示されている。この年、参政党の総収入約16億円のうち、実に約9割にあたる14億円が個人からのものだった。これは、「大企業や宗教団体などの支援のない小さな政治団体」という参政党自身の描く自画像と合致する。
詳細を見ると、個人をターゲットにしたタウンミーティングを多数開催し、1人あたり500円から3,000円程度の参加費で合計2億6千万円を獲得。また、首都圏の国際会議場などで開催した政治資金パーティーでは2回で延べ1万3千人から3億2千万円を集めた。さらに、延べ3千人以上の個人からの寄付は4億3千万円に上り、この年の自由民主党の個人寄付4億8千万円に迫る水準であり、共産党と並んで4億円以上の個人寄付を集めた数少ない政党の一つとなった。
党員が支払う党費収入も3億4千万円と大きく、4万6524人が党費を納めている。特筆すべきは、年額4千円の自民党に比べ、参政党の党費が圧倒的に高い点である。政策立案に投票権を持つ運営党員は月額4千円、地域別オフ会への参加資格がある一般党員でも月1千円を支払う。こうした個人収入の比率の高さは、収入規模が同程度の国民民主党が政党交付金に約9割を依存し、個人からの収入が1%以下であるのと比較すると、まさに参政党の収入構造が「草の根の広がり」に支えられていることを示唆している。
参政党の神谷宗幣代表が街頭で支持を訴える様子。2025年7月12日、佐賀県鳥栖市にて。
「オーガニック」な関心層との意外な繋がり
参政党のこうした広がりを支える背景には、ある政党の幹部経験者が語った「オーガニック」とのつながりがあるのかもしれない。この幹部経験者の妻がオーガニックに関心が深く、インスタグラムで関連ページを閲覧していると、アルゴリズムによって「参政党」の情報を頻繁に目にするという。この経験から、幹部経験者は、参政党がオーガニックに関心を持つ一定のボリューム層に深く食い込んでいると感じている。この繋がりは、これまで言われてきた「反米保守」といった参政党のイデオロギー的特徴とは直接関係がない。
ネット右翼や保守勢力の研究で知られる作家・評論家の古谷経衡氏の論考が、この現象の理解を助ける。古谷氏は、参政党が政党要件を獲得した2022年参院選の直後にヤフーニュースに寄稿した記事の最後に、参政党を「単なる『ネット保守』政党ではない。全体としてみれば、オーガニック信仰を基調として、そこに保守的要素が『後付け』された異形の『オーガニック右翼(保守・右派)』と呼ぶべき右派政党」と位置づけている。この指摘は、参政党の支持基盤が単なるイデオロギーだけでなく、特定のライフスタイルや価値観に深く根ざしていることを示唆している。
結論
参政党の躍進は、大企業や団体からの支援に頼らず、個人からの政治資金に大きく依存するという独自の資金構造によって支えられている。これは、彼らが提唱する「草の根」の政治活動が実際に収益構造に反映されていることを示している。さらに、その支持層には、従来の政治イデオロギーでは捉えきれない「オーガニック」なライフスタイルへの関心を持つ人々が深く関わっている可能性が高い。古谷経衡氏が指摘する「オーガニック右翼」という概念は、参政党が単なるネット保守に留まらない、異色の政治勢力であることを明確にしている。この分析は、今後の日本の政治動向を理解する上で、参政党という新たなプレーヤーの多角的な側面を浮き彫りにするものである。
参考文献
- 朝日新聞 取材班「『言った者勝ち』社会 ポピュリズムとSNS民意に政治はどう向き合うか」(朝日新書)
- 朝日新聞 2023年12月2日朝刊
- プレジデントオンライン (PRESIDENT Online)
- Yahoo!ニュース