京都の老舗「丸太町かわみち屋」閉店に惜別の声、菓子業界に迫る「倒産ラッシュ」の背景

京都市で長年親しまれてきた焼き菓子「蕎麦ぼうろ」で有名な『丸太町かわみち屋』が、今年5月に惜しまれつつ暖簾を下ろしました。独特の缶容器に入った素朴な味わいは、贈答品や家庭のおやつとして多くの人々に愛されてきました。この老舗の閉店は、いま日本の菓子業界全体が直面している深刻な課題と、記録的な倒産件数の増加という現実を浮き彫りにしています。

愛された味「丸太町かわみち屋」の歴史に幕

『丸太町かわみち屋』の公式ウェブサイトには、「閉店を知った大勢のお客さまにご来店いただき、おかげさまで商品が完売いたしました」とのメッセージが掲載されました。当初5月末の閉店を予定していましたが、予想を上回る顧客からの支持により、予定を早めて5月20日にその歴史に幕を閉じました。この急な閉鎖は、長年地域に根ざし、人々の生活の一部となっていた「街の味」が静かに姿を消していく現状を象徴しています。

菓子製造小売業で記録的な倒産件数

地域で愛される店が消える一方で、菓子製造小売業界全体が未曽有の苦境に立たされています。信用調査会社の東京商工リサーチ(TSR)の報告によると、今年1月から10月までの菓子製造小売業の倒産件数は42件に達し、過去最多のペースで推移しています。特に注目すべきは、この倒産件数の約8割が従業員4人以下の小規模店である点です。TSR情報部の坂田芳博氏は、「今年は過去最多だった2013年の45件を上回るでしょう」と述べ、年末のクリスマス商戦に向けて「エッグショック」と呼ばれる卵の価格高騰や光熱費の上昇が、さらに追い打ちをかけると懸念を示しています。

丸太町かわみち屋の「蕎麦ぼうろ」が入った缶容器と「閉店のお知らせ」の告知丸太町かわみち屋の「蕎麦ぼうろ」が入った缶容器と「閉店のお知らせ」の告知

「エッグショック」だけではない、倒産の多重な要因

菓子製造小売業の倒産が増加している背景には、原材料価格の高騰だけではない多岐にわたる要因があります。TSRの分析では、倒産件数42件のうち約3割が原材料などの物価高騰を原因としています。加えて、値上げによる売上減少、コンビニエンスストアの高品質なスイーツとの競争激化、そして職人を含む人手不足が深刻な問題となっています。

洋菓子業界の関係者からは「原材料などが軒並み高騰しており、値上げせざるを得ないが、それ以上にコストが上がっている。原材料費、運送費、人件費の上昇が大きい」という切実な声が聞かれます。和菓子業界の関係者も、経営状況を「深刻」と語り、特に贈答用の需要が「明らかに減っている」と指摘。大企業がお歳暮などの受け取りを辞退するケースが増え、出張時の手土産として現地の和菓子を購入する人も減少しているといいます。さらに、「昔は集金業務があり、集金に来た人にお菓子を差し上げることもあったが、今は振り込みになり、人と人との付き合いが減っている」と、商習慣の変化も客足が遠のく一因として挙げられています。

業界全体が直面する課題と今後の展望

全日本菓子協会が発表している業界動向調査分析資料によると、原材料、包装資材、エネルギー、物流、人件費などあらゆるコストが増加の一途をたどり、商品の値上げが避けられない状況です。一方で、消費者の節約志向が強まり、嗜好品である菓子の需要への影響が懸念されています。特に、チョコレートの原料となるカカオ豆の確保は大きな不安材料であり、カカオ豆を減らした商品開発や植物油脂への代替といった対応も進められています。

同協会はまた、人手不足の解消には賃上げが必要不可欠であると指摘しており、今後の商品価格の引き上げが需要にどのような影響を与えるかを注視する必要があるとしています。菓子業界は、コスト増、競争激化、人手不足、そして消費行動の変化という多重苦に直面しており、伝統の味を守りながら持続可能な経営を確立するための新たな戦略が求められています。


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