日本ペンクラブ、参院選の外国人差別デマに緊急声明を発表 – 民主主義の危機を警告

日本ペンクラブは7月15日、参議院選挙期間中に見られた外国人への差別やデマの拡散に対し、緊急声明を発出しました。東京都内で開かれた記者会見で、声明発出を呼びかけた中島京子常務理事は「デマによって票が伸び、国の政策に反映されるのは恐ろしいことだ」と強い危機感を表明しました。この声明は、民主主義社会における言論の健全性を守るための警鐘となっています。

声明が訴える「民主主義の危機」

今回の声明では、与野党を問わず、一部の政党が外国人排斥を競い合う状況が生まれていると厳しく指摘しています。歴史を振り返れば、関東大震災時にはこうしたデマや差別扇動が朝鮮人虐殺といった悲劇につながった経緯があり、日本社会は過去の反省に立って共生社会の実現を目指してきました。声明は、「少しずつでも成熟し前進してきた民主主義社会が、一部の政治家による一時的な歓心を買うための『デマ』や『差別的発言』によって、後退し崩壊していくことを、私たちは決して許しません」と強く訴え、現状への深い懸念を示しています。

「表現の自由」とデマ拡散の境界線

この緊急声明は、現状に危機感を覚えた中島常務理事の呼びかけにより、急遽作成されたものです。中島氏は会見で、「表現の自由というのは、デマを拡散する自由ではない」と明確に述べ、言葉の持つ責任と影響力の大きさを強調しました。特定の集団を攻撃する意図を持った虚偽の情報は、表現の自由の範疇には含まれないという強いメッセージが込められています。

作家・桐野夏生会長が語るSNSと言葉の問題

言葉を扱う作家として、人を攻撃するような言葉が溢れる社会をどう考えるか問われた桐野夏生会長は、SNS上の言動について言及しました。桐野会長は「SNSには客観的な目が入っていない言葉が溢れている。私たちが仕事で使っている言葉とSNS上で交わされる言葉は全然違うものと感じている」と語り、SNSにおける「軽い言葉」が現実社会に影響を与える現状に強い違和感を示しました。そして、「それは違うと言っていきたい」と、作家としての言葉に対する責任感を表明しました。

日本ペンクラブの緊急記者会見で発言する桐野夏生会長。参院選の外国人差別デマに対する声明発表の様子。日本ペンクラブの緊急記者会見で発言する桐野夏生会長。参院選の外国人差別デマに対する声明発表の様子。

有権者への呼びかけ:一票の重み

声明はまた、「民主主義社会を守るために、有権者がいま一度立ち止まり、自身の一票を大切に行使することを願います」と、全ての有権者に対し、冷静な判断を促しています。専修大学教授である山田健太副会長は、SNSの世界では嘘の情報であっても面白ければ関心を引き、拡散されやすいという現状を指摘しました。その結果、嘘が真実として認識され、ファクトチェックがますます困難になる危険性があるとし、今回の声明が「SNSのかっこいい言葉や威勢がいい言葉が、本当に自分たちが求める社会につながるのか考えるきっかけになればいい」と述べ、市民が深く思考することの重要性を訴えました。

今回の日本ペンクラブの声明は、参院選におけるデマや差別言動が民主主義の根幹を揺るがす深刻な問題であることを浮き彫りにしました。歴史的な教訓を忘れず、表現の自由を誤用しないこと、そして有権者一人ひとりが一票の重みを自覚し、情報を見極める力が、健全な民主主義社会を維持するために不可欠であるという強いメッセージを発信しています。

参考文献

  • 朝日新聞社
  • Yahoo!ニュース (記事掲載元)