SNSデマが選挙戦に与える影響:駒崎美紀都議への攻撃が浮き彫りにする政治の課題

インターネット上で真実の6倍以上の速さで拡散するとされる偽情報は、特に特定政党や候補者の印象操作に直結する選挙期間中において、その問題が深刻化しています。本稿では、東京都議会議員である駒崎美紀氏が選挙活動中に「赤ちゃんを売り飛ばしている」というデマによる攻撃を受けた事例を詳細に分析し、SNSが現代の選挙に与える影響とその根深い問題点を浮き彫りにします。デジタル社会における情報戦が、いかに政治家の活動を脅かし、民主主義プロセスに影響を与えうるかを探ります。

「震えが止まらないほど怖かった」デマ攻撃の現実

昨年夏の東京都知事選での石丸伸二前安芸高田市長の善戦や、兵庫県知事選での齋藤元彦前知事の再選など、SNSが選挙結果に与える影響は近年ますます増大しています。このような状況下で、東京都議選を翌月に控えた5月上旬、北区でトップ当選を果たした駒崎美紀都議は、街頭演説中にデマを信じた人物から直接攻撃を受けました。

「『お前の夫は赤ちゃんを海外に売り飛ばしている!』と中年男性が大声で詰め寄ってきたんです。拡声器で『デマを信じて攻撃するのはやめて!』と繰り返すと男性は立ち去りましたが、しばらく震えが止まらないほど怖かった。身の危険を感じましたね」。駒崎都議のこの証言は、単なるネット上の誹謗中傷に留まらない、現実世界での具体的な脅威と心理的な影響の深刻さを示しています。
東京都議会議員の駒崎美紀氏。選挙活動中のデマ被害について語る政治家。東京都議会議員の駒崎美紀氏。選挙活動中のデマ被害について語る政治家。

デマの発信源と拡散のメカニズム

駒崎都議を攻撃したデマにおける「お前の夫」とは、子どもの貧困や虐待問題に取り組むNPO法人フローレンスを設立した駒崎弘樹氏を指します。フローレンスは国内の養子縁組も支援していますが、約2年前から「海外への養子縁組にも関与し、多額の利益を得ている」「人身売買をしている」といった根拠のないSNS投稿が後を絶たない状況にあります。

弘樹氏によると、これらのデマの発信源はNHK党や暇空茜氏といった特定のインフルエンサーだといいます。「NPO自体を嫌悪する人が一定数存在し、彼らがNPOを攻撃すると、“信者”と呼ばれるフォロワーが一斉に追随します。このような層は、内容がセンセーショナルであるほど、情報の真偽に関わらず『いいね!』やリポストで反応し、デマが爆発的に拡散してしまうのです」。このメカニズムは、特定のイデオロギーや感情に訴えかける情報が、検証されずに瞬時に広まるSNSの危険な側面を浮き彫りにしています。

誹謗中傷とマネタイズ:デマが内包する新たな問題

実は、駒崎都議が直接攻撃を受けたのは、今年の都議選が初めてではありません。2024年の都議補選の街頭演説中にも、30代くらいの男性が「駒崎弘樹は人身売買をしている。どう思うのか!」と大声で繰り返し、駒崎氏に迫る事態が発生しています。

「選挙スタッフが身を挺して守ってくれ、警察を呼びましたが処罰はなかった。それに、この男性はスマートフォンで私を撮影していたんです。人を攻撃して歪んだ満足感を得た上に、インプレッションを稼いで金銭まで得られる。事実無根の情報でもマネタイズできるプラットフォームが、こうした行為を助長している格好です」。この証言は、誹謗中傷が単なる個人的な感情の発露ではなく、経済的な動機と結びついている可能性を示唆しており、問題の複雑性を増しています。
東京都議会議員補欠選挙中、警察官にデマ攻撃の状況を説明する選挙スタッフ。SNSデマによる街頭演説妨害の様子。東京都議会議員補欠選挙中、警察官にデマ攻撃の状況を説明する選挙スタッフ。SNSデマによる街頭演説妨害の様子。

SNS上での政治家に対するデマや誹謗中傷は、選挙が近づくと急増し、投開票とともに収束する傾向があるといいます。「投票してもらわなければ当選できないので、候補者は弱い立場です。それを見越して攻撃してくるのでしょう。また、選挙期間中は多忙を極め、デマが拡散しても個々に対応できないのが現実です。SNS事業者に削除を要請しても、すぐに対応してくれなければデマが拡散されたまま選挙期間は終わってしまう……。泣き寝入りするしかないんです」。この状況は、現行のSNSプラットフォームの対応能力と、公職選挙法を含む法整備の遅れが、政治家を脆弱な立場に追い込んでいることを示唆しています。

結論

駒崎美紀都議の事例は、SNSが現代の選挙活動に与える負の影響と、偽情報がもたらす深刻な被害を如実に示しています。デマの拡散は単なる情報伝達の問題に留まらず、候補者の精神的・身体的な安全を脅かし、政治活動そのものを妨害する可能性を秘めています。また、デマがマネタイズされる構造は、さらなる偽情報生成を促し、民主主義の根幹を揺るがす危険性をはらんでいます。

選挙期間中の政治家の脆弱性、SNSプラットフォームの対応の遅れ、そして法的な不備は、この問題に対する喫緊の対策を必要としています。有権者が正しい情報に基づいて判断できる環境を保護するためには、デマの拡散メカニズムへの理解を深めるとともに、プラットフォーム事業者、立法府、そして市民社会が一体となって、偽情報に対抗する強固な枠組みを構築していくことが不可欠です。


出典: https://news.yahoo.co.jp/articles/66a422e8adb0bb8ee758739d3f2045a9f3b44334