広島平和公園で初の強制排除:原爆の日に警察「実力行使」の背景

米軍による原爆投下から80年の節目を迎えた「原爆の日」、平和記念公園(広島市中区)の一角で抗議活動を続けていた左派団体に対し、広島県警が史上初めて「実力行使」に踏み切った。市の退去命令を拒否し続けた活動家らが強制的に公園外へ連れ出されたこの異例の事態は、一体どのような背景で行われたのだろうか。

緊迫の強制排除、鳴り響く警告と抗議の声

8月6日午前5時20分ごろ、平和記念公園内の原爆ドーム前で緊迫した空気が漂った。広島中央警察署長の命令として、県警の機動隊員が拡声器を通じ、集会参加者に対し「公園に滞留する行為は市に対する威力業務妨害行為になっている。ただちに退去しなさい」と再三にわたって警告を発した。平和記念式典の警備を考慮し、午前5時以降は園内からの退去が義務付けられていたのだ。

これに対し、石破茂首相の平和記念式典への出席反対や「中国侵略戦争」阻止などを訴える団体は徹底抗戦の構えを見せた。メンバーらは腕を組み、前列に座り込むなどして抵抗。拡声器を手に「機動隊は帰れ!」と大合唱し、警察の呼びかけに応じようとしなかった。この大規模な集会の主体は「8・6ヒロシマ大行動実行委員会」であり、公安関係者によると、過激派である中核派やその学生組織である中核派全学連も関与していたとされる。団体の共同代表である壹貫田康博氏は取材に対し、「警察は暴力的であり、見せしめに他ならない」と強く非難した。

原爆ドーム前で集会参加者に退去を呼びかける広島県警機動隊員。平和記念式典前の緊迫した状況を示す。原爆ドーム前で集会参加者に退去を呼びかける広島県警機動隊員。平和記念式典前の緊迫した状況を示す。

平和記念公園を管理する広島市は、公園利用者をいったん園外に出し、市が設置した入場ゲートで手荷物検査を済ませた上で再入場を許可する「立ち入り規制」を昨年から実施している。これは、安全な平和記念式典の実施に向けた重要な措置だ。

「安全な式典」に向けた市の対策と過去の事件

こうした公園管理における市の神経質な対応の背景には、過去の事件がある。令和5年には、平和記念公園の原爆ドーム前で対応中の市職員に対し、集団で暴行を加えたとして、中核派活動家の5人が逮捕、起訴される事件が発生した(公判は広島地裁で進行中)。このような経緯から、広島市は平和記念式典の「安全な実施」に細心の注意を払ってきたのだ。

原爆の日当日、公園を管理する広島市は、午前5時以降、繰り返し警告を発した上で、市公園条例に基づき退去命令を発出した。その後、「式典警備の適切な実施に影響が及ぶ」と判断し、広島県警に強制排除を要請した。

80周年を見据えた周到な法的準備

これまでの経緯は昨年とほぼ同じであり、状況も大きく変わらなかったにもかかわらず、なぜ今年は強制排除という異例の事態に至ったのだろうか。その主な理由として挙げられるのが、広島県警による周到な準備である。

県警は昨年の規制時間帯における園内の集会状況を詳細に把握しており、これを踏まえ、今回の措置の法的根拠を明確にするため、検察庁や警察庁とも綿密な協議を重ねてきたという。広島原爆投下から80年という節目の年を控え、より安全かつ円滑な式典運営を確保するため、法的な側面からの準備が徹底されていたことが、今回の「実力行使」につながったものとみられる。

結論

今回の広島平和公園における左派団体の強制排除は、原爆投下から80年という歴史的な節目を迎える中で、平和記念式典の安全と秩序を確保するための異例かつ厳格な措置として実施された。過去の事件や周到な法的準備がその背景にあり、公共の安全と秩序維持の重要性を改めて浮き彫りにする出来事となった。このような警備体制の強化は、今後の大規模イベントにおける公共空間の利用と管理のあり方にも影響を与える可能性を秘めている。