令和のコメ騒動、背景に潜む「農政の制度疲労」と「食の外部化」の真実

「令和のコメ騒動」は依然として収束の兆しを見せていません。社員食堂のご飯の質の低下やコンビニおにぎりの値上げなど、私たちの日常生活に具体的な影響が広がる中、「コメは余っているはずなのに、なぜ不足するのか?」という疑問を抱く人も少なくないでしょう。この混乱の根底には、農政における「制度設計」「統計」「備蓄対策」の時代遅れと、現代の食生活の変化が見過ごされている実態が横たわっています。

制度の変遷と「見えない」流通構造

かつて日本のコメは、食糧管理法(食管法)によって国家が厳格に管理し、供給と価格の安定が図られていました。しかし、1995年の食管制度廃止と食糧法への移行により、コメ市場は自由化され、農家はJAや卸売業者だけでなく、外食・小売業者への直接販売も可能になりました。同時に、長らく需給調整を担ってきた減反政策も2023年には完全廃止されています。

こうした制度の大きな変化は、コメ流通の「見える化」を困難にしました。政府が市場全体の需給を正確に把握する手段を失い、多様な流通経路が生まれた結果、今回の需給逼迫時に誰も全体像を把握できないという問題が浮き彫りになったのです。かつての農政の目標であった「米価維持」という理念も、人口減少と少子高齢化が進む現代においては、「食を守る」ことと一致しない時代へと転換期を迎えています。

時代遅れの備蓄・統計制度が招く混乱

コメの備蓄制度や統計制度もまた、現代の市場構造に適合できていません。「政府備蓄米」は約100万トンあるとされていますが、その大半は業務用ニーズに合わない品種や年代のものであり、市場の需給緩衝材としては機能しにくいのが現状です。市場備蓄の流動性も乏しく、リスクに備えるセーフティネットとしての設計が不十分であると言わざるを得ません。

農林水産省による米穀流通実態調査や家計調査も、旧来の「家庭内炊飯」を前提とした項目設計のままであり、「食の外部化」が進行した現在の実態を正確に捉えきれていません。制度設計、統計制度、備蓄制度――これら三つの制度疲労が複合的に絡み合い、今回の「静かなパニック」を引き起こしたのです。

スーパーの陳列棚に並ぶ「国産ブレンド米」。令和のコメ騒動が続く中、消費者が直面する選択肢や価格動向を象徴している。スーパーの陳列棚に並ぶ「国産ブレンド米」。令和のコメ騒動が続く中、消費者が直面する選択肢や価格動向を象徴している。

コメ消費量減少の真実:高まる中食・外食需要

「コメの消費量は長期的に減少傾向にある」という認識は確かに事実ですが、これは家庭内炊飯に限定された話です。現代においてコメは、「調理して食べるもの」から「調理された状態で買うもの」へとその消費形態を大きく変化させています。惣菜や外食、パックご飯、冷凍米飯など、「食の外部化」が進む中で、コメの“調理済み需要”は底堅く推移しているのです。

2024年の家計調査では、1世帯あたりの調理食品(惣菜)支出が過去最高を記録し、冷凍調理食品や外食も堅調に伸びています。このデータは、「おにぎりや弁当としてのコメ需要」が想定以上に健在であることを示唆しています。特に業務用(中食・外食)で多く使われるコシヒカリ系の供給不足が、今回のコメ不足の一因となったことは、単なる「余剰」ではなく「用途不適合な在庫」が市場に残っているという実態を浮き彫りにしています。つまり、消費動向と供給実態のミスマッチが、見かけ上のコメ余剰を生み出しているに過ぎないのです。

まとめ

「令和のコメ騒動」は、コメの供給不足という表面的な問題に留まらず、日本の農政が抱える構造的な課題、すなわち時代に即していない制度、不正確な統計、機能不全の備蓄体制が複合的に作用した結果です。さらに、家庭内でのコメ消費が減少する一方で、中食・外食といった「調理済みコメ」への需要が堅調に推移しているという現代の食生活の変化が、需給ミスマッチを加速させています。この混乱を収束させるためには、小泉進次郎大臣が提唱する「問屋不要論」のような流通の一側面だけでなく、抜本的な制度改革と、変化する消費者ニーズを正確に把握する仕組みの構築が急務と言えるでしょう。

参考資料

  • 白鳥和生. (流通科学大学教授). 『令和のコメ騒動』に関する分析.
  • 農林水産省. 米穀流通実態調査.
  • 総務省統計局. 家計調査報告.
  • President Online. (参照元記事)