日銀大規模緩和の「弊害」を警告:木内登英氏が2015年議事録から語る政策の軌跡と将来のリスク

日本銀行が公開した2015年上半期の金融政策決定会合議事録は、当時の政策運営における重要な議論を浮き彫りにしました。中でも注目されるのは、当時審議委員を務めていた野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストが、大規模な金融緩和の長期化がもたらす弊害を強く懸念し、国債買い入れの減額を提案していたことです。日銀は近年、金融正常化へと舵を切り、国債買い入れの減額にも着手していますが、木内氏は、自身が当時指摘した副作用が今後顕在化する可能性は依然として残されていると警鐘を鳴らしています。

木内登英氏 野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト、大規模金融緩和の弊害を指摘木内登英氏 野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト、大規模金融緩和の弊害を指摘

当時の経済状況と日銀の政策課題

2015年当時、日銀は前年10月に金融緩和をさらに拡大したにもかかわらず、物価上昇率はゼロやマイナス圏へと鈍化する傾向にありました。これは、日銀が2年程度の期間で2%の物価目標を達成するという目標が困難になり、政策運営に行き詰まりが見え始めていた時期にあたります。しかし、中央銀行が「強い自信」を持って市場や人々に働きかけることで、人々のインフレ期待を変化させるという考え方に基づき、日銀執行部は強気の発言を継続していました。

木内氏が懸念した大規模緩和の「副作用」と提案

このような状況下で、木内氏は実現可能性の低い物価目標に固執し、異例の金融緩和を継続すれば、様々な副作用を生むと指摘しました。彼が具体的に挙げた弊害は以下の3点です。

  1. 国債市場機能の低下: 大規模な国債買い入れによって市場における国債の流通量が減少し、価格形成機能や流動性が損なわれるリスクです。
  2. 政府の財政規律の緩和: 金利が低い水準に抑えられることで、政府が財政支出を拡大しやすくなり、財政規律が緩む可能性です。
  3. 日銀の利払い負担増大と収益悪化: 国債買い入れによって金融機関が日銀に預ける超過準備金が膨大になるため、将来的に利上げを行った際、日銀が金融機関に支払う利払い負担が急増し、日銀自身の収益が悪化するリスクです。

木内氏は、これらの将来的なリスクを軽減する目的で、国債買い入れの減額を会合で提案しました。この提案は当時、他の委員から批判を浴び否決されましたが、翌年9月には長短金利操作(YCC)が導入され、金融政策は一定の軌道修正が図られることになります。

今後の金融政策と「副作用」顕在化の可能性

木内氏は、大規模緩和の弊害が完全に顕在化するかどうかは「長い目で見ないと分からない」としながらも、その可能性は依然として残されていると指摘します。日銀はまだ大量の国債を保有しており、国債残高の削減にはかなりの時間を要するのが現状です。もし、緩和的な金融政策が政府の財政規律を緩めているという見方が市場で強まるようであれば、長期金利が大きく変動し、それが日本経済に悪影響を及ぼす可能性も否定できないと警鐘を鳴らしています。

結論

日銀が2015年の金融政策決定会合議事録を公開したことは、過去の政策決定プロセスと、それに伴う専門家の懸念を再評価する機会を提供しました。木内登英氏が当時から警鐘を鳴らしていた大規模金融緩和の副作用は、日銀が金融正常化へ向かう現在においても、長期的な視点での検証が必要不可欠です。市場機能の維持、財政規律の確保、そして日銀自身の財務健全性といった多角的な視点から、今後の日銀の政策運営とそれらが日本経済に与える影響を注視していく必要があります。

参考資料