今年1月、福岡市で医療的ケアが必要な長女・心菜さん(当時7歳)の人工呼吸器を外し殺害したとして、殺人の罪に問われた母親・福崎純子被告(45)に対し、福岡地裁は懲役3年、保護観察付き執行猶予5年の判決を言い渡しました。検察側の求刑は懲役5年でしたが、弁護側が訴えた母親のこれまでの献身的な努力が考慮された形です。この事件は、医療的ケア児を持つ家族が直面する介護の過酷さと、社会が向き合うべき課題の根深さを示唆しています。
医療的ケア児を殺害した母親の裁判の様子。左は医療的ケア児と介護の困難を示すイメージ、右は福岡地裁の建物で、福崎純子被告の公判が行われた現場。
事件の背景と裁判の焦点
心菜さんは「脊髄性筋萎縮症(SMA)0型」と診断され、24時間体制での介護と人工呼吸器なしには生命を維持できない「医療的ケア児」でした。公判では、被告人質問で福崎被告が我が子を手にかけた苦しい胸の内を詳細に明かしました。弁護側は、母親が心菜さんの命を繋ぐために重ねてきた計り知れない努力を強調し、情状酌量を求めました。最終的に下された執行猶予付きの判決は、この背景と介護の過酷さが深く考慮された結果であると言えるでしょう。
母親が明かした苦悩の過去
7月14日の公判で、福崎被告は証言台に立ち、弁護人からの質問に対し、言葉を一つ一つ噛みしめるように答えました。31歳で結婚し、夫婦は子どもを授かることを心から願っていました。しかし、最初の妊娠では胎児に異常が見つかり、中絶を選択。2度目の妊娠でも同様の異常が指摘されましたが、別の病院での検査を経て「中絶する理由はない」と告げられ、通常分娩で出産しました。
しかし、出産直後、福崎被告はすぐに異変に気づきます。赤ちゃんの泣き声は聞こえず、分娩室は静寂に包まれ、心菜さんはすぐに別の部屋へ運ばれました。その後、医師から心菜さんが脊髄性筋萎縮症(SMA)0型と診断されたことを告げられます。「自身で体を動かすことはできない」「呼吸器なしでは生きられない」「残された命は長くて2~3年」という医師の言葉に、夫婦はただただ泣き崩れたといいます。
医療的ケア児家庭への社会の支援の必要性
福崎純子被告への猶予判決は、単なる一つの刑事事件の結末にとどまらず、医療的ケア児とその家族が直面する社会的な課題を改めて浮き彫りにしました。献身的な介護が長期にわたり、肉体的・精神的、そして経済的な負担が限界を超えた時に何が起きるのか。この判決は、そうした過酷な現実への司法の理解と、同時に、こうした悲劇を防ぐためのより包括的な社会の支援体制の構築が喫緊の課題であることを強く訴えかけています。
参照元:
医療的ケア児の娘を殺害した母親、判決は懲役3年・執行猶予5年 公判で明かされた苦悩「残された命は長くて2〜3年」