訪日「カンニングツアー」の新たな標的:TOEICからTOEFLへ、巧妙化する英語試験不正の実態

日本国内で実施される英語能力試験を巡り、中国を拠点とする「カンニング業者」の暗躍が続いています。先般、逮捕者まで出たTOEIC不正事件は世間に衝撃を与えましたが、現在、これらの業者は新たな“標的”を見つけ、その活動をエスカレートさせていることが明らかになりました。以前、本誌で中国業者の不正事情をいち早く報じたフリーライターの廣瀬大介氏が、最新の動向をレポートします。

訪日「カンニングツアー」の新たな標的:TOEICからTOEFLへ、巧妙化する英語試験不正の実態

TOEICの不正受験取り締まり強化を受け、中国のカンニング業者は次の標的としてTOEFLに焦点を移し、「訪日カンニングツアー」を企画している実態が明らかになりました。これにより、英語能力試験の信頼性が問われています。

TOEIC不正事件の波紋と大規模な摘発

今年5月、中国籍の京都大学大学院生がTOEIC公開テストの都内会場で「替え玉受験」に関与したとして逮捕された事件は、社会に大きな衝撃を与えました。その後の捜査で、過去2年間に803人もの受験生が不正行為に関与していたことが発覚。試験を運営する国際ビジネスコミュニケーション協会は、不正に関わった受験者に対し、試験結果の無効化と5年間の受験資格剥奪を通告する事態に至りました。これは、中国人留学生と業者による組織的な不正受験ビジネスが、日本の英語試験において広範囲にわたって横行していた可能性を強く示唆しています。

標的はTOEFLに移行:巧妙化する「訪日カンニングツアー」

TOEIC不正事件の影響が顕著になるにつれ、以前はTOEICの「点数保証」を謳っていた中国の業者のSNSアカウント(小紅書・シャオホンシューなど)では、関連広告が激減していることが確認されました。その一方で、「TOEFLなら日本、ドバイ、オマーン、アフリカで受けるのがオススメです」といった具体的な指示を出すものや、「東京TOEFL受験ツアー・全セクション対応・旅行と試験」などと宣伝する広告が急増しています。

この変化は、日本でのTOEIC不正に対する取り締まり強化を業者側が察知し、その焦点を世界的に広く実施されている別の英語能力試験であるTOEFLへと移行させていることを明確に物語っています。いわゆる“訪日カンニングツアービジネス”の新たな展開が窺える状況です。これらの業者の投稿には、受験希望者とみられるユーザーからの「費用はいくらですか?」「相談したいです」といった大量のコメントが寄せられており、新たな不正の需要が膨らんでいる実態が浮き彫りになっています。

TOEFLの重要性と不正がもたらす深刻な影響

TOEFL(トーフル)は、TOEIC(トーイック)と同様に、日本の大学へ留学する際に提出が求められることがあるほか、外資系企業の就職においても重視される世界的な英語能力試験です。世界200以上の国と地域で実施されており、その結果は留学ビザや就労ビザの取得に間接的に必要となるケースも少なくありません。特に英語圏の国家では、TOEFLの成績がビザ取得の必須条件となる場合も多いため、その信頼性は非常に重要です。

TOEICが主に「読む」「聞く」能力をマークシート形式で測るのに対し、TOEFLはこれに加えて「話す(スピーキング)」と「書く(ライティング)」が加わるため、より実践的な英語力を測定するとされています。このような国際的に信頼される試験における不正行為の蔓延は、日本を含む各国の教育機関や企業が外国人材の英語力を適切に評価する上で、深刻な脅威となり得ます。試験の公平性と信頼性が損なわれることで、正当な努力で取得した成績の価値が相対的に低下する可能性も懸念されます。

今回のTOEFLへの標的移行は、不正行為がより巧妙化し、国境を越えた組織的な犯罪として進化していることを示しています。今後、関係機関によるさらなる監視と対策の強化が喫緊の課題となります。


プロフィール

廣瀬大介(ひろせ・だいすけ)/1986年生まれ、東京都出身のフリーライター。明治大学を卒業後、中国の重慶大学に留学し、メディア論を学ぶ。2012年帰国後、フリーランスとして週刊誌やウェブメディアで中国の社会問題や在日中国人の実態などについて情報発信を行う。

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