今年度、日本全国でクマによる人身被害が深刻化しており、10月17日時点で死者数が過去最悪の8人に達しました。この異例の事態に対し、専門家は被害の「連鎖」とクマの異常な攻撃性を指摘し、早急な対策の必要性を訴えています。人間の味を覚えたクマを放置すれば、さらなる重大な人身被害が続く可能性があり、特に人里でのクマ出没が増加する中で、住民の不安が高まっています。
過去最悪の人的被害と専門家が懸念する「攻撃性の連鎖」
今年のクマによる人身被害は、例年になくその数と凶暴性が際立っています。日本ツキノワグマ研究所代表で、クマ研究に半世紀携わる米田一彦氏は、現在の状況について「これほどの攻撃的な事例は見たことがない」と警鐘を鳴らしています。特に懸念されるのは、一度人間に危害を加えたクマがその行為を繰り返す「攻撃性の連鎖」です。このようなクマは人に対する警戒心を失い、より大胆な行動に出る傾向があり、被害の拡大に繋がりかねません。
2023年度のクマによる人身被害者数(9月末時点)を示すデータ。全国で108人が襲われ、さらなる増加が懸念される。
岩手県和賀町で相次ぐ凄惨な襲撃事例
今年7月から10月にかけて、岩手県北上市和賀町では、クマによる襲撃で3人もの命が奪われるという前例のない事態が発生しました。これらの事件は、クマの行動パターンと被害の性質において、従来の常識を覆すものでした。
自宅内での悲劇と「三毛別ヒグマ事件」との比較
7月4日、和賀町の住宅で高齢女性がクマに襲われ亡くなるという痛ましい事件が起きました。家の中にまで侵入して人を襲い死に至らしめたケースは、1915年の「三毛別ヒグマ事件」のような稀な事例を除けば、ほとんど記憶にありません。これは、クマが人里深く入り込み、極めて攻撃的な行動に出ていることを示しています。
DNA解析で判明した同一グマの関与、そして続く悲劇
7月11日に駆除されたクマのDNA解析の結果、高齢女性を襲ったクマと同一個体であることが判明し、住民の間には一時安堵が広がりました。しかし、この「攻撃的なクマ」による被害はこれで終わりませんでした。10月8日には、被害女性宅から約7キロ離れた山林で、キノコ採りに出かけていた高齢男性の遺体が発見されました。遺体は激しく損傷しており、報道によると「胴体からやや離れた位置に頭部が転がっていた」とされます。米田氏は、遺体がこれほどバラバラになるほどの損傷は、複数のクマが関与した可能性も示唆しています。
温泉施設従業員の行方不明とクマの異常な執着
さらに10月16日、高齢男性の発見現場から約2キロ離れた瀬美温泉で、60代の男性従業員が行方不明となり、翌朝、近くの山林で遺体となって発見されました。発見時、遺体のそばにはクマがおり、その場で駆除されました。遺体はひどく損傷し、一部がなくなっていたといいます。米田氏は、「クマは遺体を『エサ』とみなすと、それに執着する習性がある。だから捜索隊が近づいても遺体から離れなかったのだろう」と説明しています。今後、このクマのDNA解析により、以前の襲撃事件との関連性、特に血縁関係の有無が注目されています。
結び
今年度、日本で発生しているクマによる人身被害は、その件数、攻撃性、そして被害の異常な性質から見て、過去に類を見ない深刻な状況です。専門家が指摘する「攻撃性の連鎖」は、今後のさらなる被害拡大を強く示唆しており、地域社会全体でクマ対策の強化と情報共有が不可欠です。私たち一人ひとりがクマの生態と危険性を理解し、地域と行政が連携して効果的な対策を講じることが、これ以上の悲劇を防ぐための喫緊の課題となっています。