参議院選挙を控え、多くの政党が手取りの増加や物価高対策を公約に掲げ、減税論議が活発化しています。しかし、給与からの天引き項目として大きな割合を占める「社会保険料」や、それを支える「公的医療保険制度」については、なぜか議論が深まっていません。政治の場で十分に語られないこの重要な課題に対し、本稿ではその実態と将来的な展望、そして持続可能な制度への道筋を真剣に考察します。
日本の公的医療保険制度の現状と課題
日本の公的医療保険制度の概要
日本は国民皆保険制度を採用しており、すべての国民が公的医療保険への加入を義務付けられています。会社員は健康保険、自営業者や無職の方は国民健康保険に加入します。また、40歳からは介護保険への加入も自動的に始まり、健康保険料に上乗せして介護保険料を支払います。医療を受ける際の自己負担割合は、70歳未満が3割、70歳以上75歳未満が2割、そして75歳を超えると「後期高齢者医療制度」に移行し、自己負担は原則1割に軽減されます(所得によっては3割負担の場合もあります)。この制度の最大の特徴は、医療ニーズが高まる高齢層ほど負担が軽減される仕組みになっている点です。
増大する国民医療費とその背景
財務省の統計によると、所得に占める税および社会保障負担の比率は右肩上がりに推移しています。現在の日本の国民医療費は、2023年時点で約47.3兆円に達し、これは国内総生産(GDP)の約8%に相当します。厚生労働省の見通しでは、2040年にはGDPの約10%まで膨張するとされていますが、この時点でも団塊ジュニア世代はまだ後期高齢者にはなっていません。このため、2060年頃までは国民医療費の増加が続く可能性が極めて高く、それに伴い社会保険料も上昇し続けることが予想されます。医療費が増加する主な原因は、高齢化の進展に加え、医療技術の高度化と普及にあります。
増加し続ける医療費と現役世代の社会保険料負担のイメージ
医療費「削減」ではなく「適正化」を:専門家の提言
専門家が語る持続可能な制度への道筋
非営利の医療政策シンクタンクである日本医療政策機構でシニアマネージャーを務める栗田駿一郎氏は、増大する国民医療費を「お金の問題」としてのみ捉え、安易な削減を進めることには警鐘を鳴らします。同氏は、一律な削減は国民が必要な医療を受けられる機会を制限し、医療の発展を阻害するリスクがあると指摘します。その上で、公的医療保険制度は「国民全体でお互いを支え合うもの」であり、その持続可能性を確保するためには「適正化」の視点が不可欠であると強調しています。
現行制度が抱える「ひずみ」とは?
現在の社会保険料の徴収制度には、いくつかの「ひずみ」が存在します。例えば、社会保険料は収入に応じて変動しますが、各種の所得控除により、高所得者の実質的な負担率がかえって低くなるケースが見られます。また、多額の金融資産を持つ高齢者であっても、確定申告を行わなければ、その売却益や配当所得が社会保険料の算定基準に適切に反映されない現状があります。これらの矛盾点は、制度の公平性を損ね、現役世代の負担感を増幅させる要因となっています。
制度改革による現役世代の負担軽減
日本の社会保険料と医療保険制度は、高齢化と医療技術の進展という不可避な背景のもと、現役世代にとって看過できない負担となっています。この課題に対し、単なる医療費「削減」ではなく、制度全体の「適正化」という視点から抜本的な改革を進めることが喫緊の課題です。特に、所得控除のあり方や金融資産の適切な反映といった現行制度の「ひずみ」を是正することは、社会保障負担の公平性を高め、現役中間層の負担増大を抑制し、将来にわたる持続可能な社会保障制度を構築するために不可欠です。
参照元
- 週刊プレイボーイ
- Yahoo!ニュース
- 財務省
- 厚生労働省
- 日本医療政策機構