石破茂首相(自民党総裁)の退陣表明を受け、2年連続となる自民総裁選の号砲が鳴った。8日、早くも「ポスト石破」が名乗りを上げ始めた。予想される顔触れは1年前も立候補した人ばかりで刷新感は乏しい。少数与党下で、総裁になっても首相に選ばれる確証はなく、首相が「道半ば」とした宿題も少なくない。顔をすげ替えるだけでは党再生の道は開けず、重い責任を負った総裁選になる。
「党の歴史で最も厳しい状況だ。国民の信頼を取り戻し、誰もが評価する総裁選にしたい」。総裁選挙管理委員会の逢沢一郎委員長は8日、言葉に力を込めた。中堅は「党内が一致結束し、解党的出直しをするための入り口だ」と期待する。
一方、党関係者は出馬が取り沙汰される「ポスト石破」の面々を見てつぶやいた。「顔触れが一緒。敗者復活戦みたいなもの」
この日、一番乗りで出馬意向を明らかにした茂木敏充前幹事長、出馬方針を固めた林芳正官房長官。首相に退陣を促した小泉進次郎農相、首相と決選投票を戦った高市早苗前経済安全保障担当相、そして小林鷹之元経済安保相…。
全員、過去最多9人が立候補した昨年の総裁選を戦ったメンバーだ。この関係者は「顔だけ代えて、自民の本質は変わらないことがあり得る」と嘆き、「政策などで思い切ったことを打ち出さないと浮上できない」と強調。自民幹部も「表紙を変えれば突然、党勢がうなぎ上り…とはならない」と気を引き締める。
少数与党下という政治環境で、新総裁には首相指名選挙をどう乗り切るかも大きな課題。目新しい政策を掲げても、困難な国会運営が待ち受ける。“制約”が多い中で、各候補の打ち出しが昨年と同じでは到底支持されない。
政治不信を招いた派閥裏金事件など「政治とカネ」の問題について、改革を断行していくかは引き続き問われる。企業・団体献金の在り方はいまだに与野党で合意できておらず、石破首相の下では自民の消極姿勢が目立った。
石破政権は政策ごとに野党と協議したが、相当なエネルギーがかかり、政策の一貫性を欠く結果に。別の党関係者は「石破政権は『熟議』という言葉で安定的な政権枠組みの構築から逃げた」と振り返り、各候補には「多数与党の構想を示すのが最低条件」と言い切る。福田達夫幹事長代行も「必ず新たな連立の枠組みを作らなければいけない。大変難しい宿題だ」と指摘した。政治を安定させる知恵と技術が必須になる。
法政大大学院の白鳥浩教授(現代政治分析)は「今の自民は政権維持だけが目的化してはいないか」と厳しく問う。今回の総裁選は「野党の言いなりではなく、主導権を取って政策を進められる人を見極めるものにしなければならない。国をどこに導くのか、政治の再生に結び付ける議論を尽くしてほしい」と話した。 (小川勝也、坂本公司、村田直隆)
西日本新聞