ロシアでは、ウクライナ侵攻の影響により労働人口の減少が加速し、国内経済に深刻な影響を及ぼしている。労働社会保障大臣は、2030年までに最大300万人規模の労働力不足に陥る可能性を警告。人的損失や徴兵逃避による人手不足はインフレを助長し、長期にわたる出生率低下と相まって、ロシア経済の持続的な問題として懸念されている。
深刻化するロシアの労働力不足とその背景
15日の閣僚会議で、コチャコフ労働社会保障大臣は、ロシアの労働市場が大きな構造変化の時期に入っていると警鐘を鳴らした。同省予測では、2030年までにロシアは最低240万、最大310万人の追加労働力が必要となる見込みで、これは主要都市カザンとノボシビルスクの合計人口に匹敵する規模だ。
26万人の雇用主調査では、特に建設業と製造業で「熟練労働者の不足が深刻」と指摘。今後10年間で、1010万人の退職者による空白を埋め、80万人の新規雇用を創出するため、合計1090万人を経済活動に参加させる必要があるという。ロシア下院のバレリー・トゥーミン議員も、高齢化と出生率低下が産業、農業、運輸、ハイテク分野での労働力不足を悪化させていると述べ、人口危機への警鐘を鳴らした。
ロシアの労働人口減少と経済への影響を示すビジネス街のイメージ写真
専門家が指摘する根本原因と対策の難しさ
人口統計学者イーゴリ・エフレモフ氏は、ロシアでは長年にわたり労働力不足が観測され、経済成長の鈍化とインフレ加速を招いてきたと指摘。「ゆっくりだが、持続的に進行している」と表現した。
彼は、政府が労働人口減少を緩和できる唯一の政策は「他国からの労働移民への障壁を低くすること」だと述べた。しかし、労働移民は安全保障上の脅威と見なされがちで、政府の移民政策は厳格化される傾向にありジレンマがある。さらに、ロシアの人口構造に起因する労働力不足は、「短期的にはほとんど手の施しようがない」という厳しい見解を示している。
ロシア政府が講じる対策と今後の課題
深刻な状況に対し、ロシア政府も対策を講じている。コチャコフ労働社会保障大臣は、ブルーカラー職の魅力を向上させるため、教育改革、職業指導、インターンシップ、職業訓練の強化、給与向上、労働条件改善、魅力的なキャリアパスの提示を提唱。
また、15日の閣僚会議では、タチアナ・ゴリコワ副首相が、多子世帯や初産の親への経済的支援を含む、今後6年間の「国家家族プロジェクト」について報告した。これは、長期的な出生率低下という根本問題に対処し、将来の労働人口確保を目指すものだ。
ロシア政府は多角的に取り組むものの、人口統計学者が指摘するように、短期的解決は困難であり、これらの課題はロシア政府を長く悩ませ続けるだろう。
結論
ロシアは、ウクライナ侵攻と長年の出生率低下により、未曽有の労働人口減少と人口危機に直面している。この深刻な人手不足は、経済成長の鈍化やインフレ加速といった形でロシア経済に打撃を与えており、政府の対策効果は不透明だ。専門家が短期的解決策の欠如を指摘する中、この問題はロシアにとって喫緊かつ長期的な課題であり続けるだろう。