俳優・及川光博、通称ミッチーが、その知的で洗練されたイメージから一転、新ドラマ「ぼくたちん家(ち)」で繊細な中年ゲイ男性という新たな役どころに挑戦し、注目を集めています。本作は、従来の「家族」の枠を超え、孤独を抱える人々が共に安寧を見つける姿を描くホームドラマでありながら、深い心情描写が際立つ恋愛物語の側面も持ち合わせています。日本テレビ系で放送されるこの話題作は、現代社会における人間関係の多様性を問いかけ、多くの視聴者に共感を呼ぶことでしょう。
及川光博の新境地:繊細なゲイ男性役への挑戦
及川光博が演じるのは、動植物園で働く50歳の波多野玄一。心優しいゲイ男性でありながら、どこかお人好しで、周囲を巻き込みがちな一面も持ち合わせています。若い頃にミュージシャンを目指したものの、「オネエ言葉で歌え」というデビュー条件を拒否した過去を持つ玄一は、50歳を迎え、独り身の寂しさを痛感しています。彼は「ファミリーサイズのアイスクリームを一緒に食べてくれる人が欲しい」と願う、等身大の孤独を抱えたキャラクターとして描かれます。ミッチーがこれまで演じてきた役柄とは一線を画す、等身大で人間味あふれる玄一の姿は、視聴者に新鮮な感動を与えることでしょう。
及川光博が新ドラマ「ぼくたちん家」で演じるゲイの中年男性、波多野玄一役の優しい表情
「疑似家族」を超えた新たな人間関係の模索
玄一は、捨てられた動物たちを世話するうちにペット禁止のアパートを強制退去させられ、不動産屋の友人・田中直樹の紹介でボロアパートへ引っ越します。そこで彼が出会うのが、ワケありの中学生・楠ほたる(白鳥玉季)です。ほたるは、会社の金を横領し逃亡中の母(麻生久美子)と、別の家庭を持つ父(光石研)の間で育ち、東横キッズにも通う孤独な少女。彼女は玄一に「3000万円で、親のフリをしてほしい」と半ば強制的に契約を持ちかけます。
一方で、玄一は偶然出会ったオープンなゲイの作田索(手越祐也)に一瞬で恋をしてしまいます。索は恋人との同棲を解消し、車中泊生活を送る中学教師であり、なんとほたるの担任でもあります。孤独、絶望、諦観を抱え、それぞれに居場所がなかった三人が集まり、「安寧の暮らし」を模索していく過程が、ドラマの大きな見どころです。
日本テレビ系ドラマ「ぼくたちん家」のキービジュアル。及川光博演じる玄一と白鳥玉季演じるほたるが写り、新しい家族の形を象徴する
注目すべきキャスト陣と織りなす「ぼくたちん家」の世界
及川光博の細かい表情変化や超高速の二度見、そして一人称「僕」と「俺」の使い分けは、玄一の人の良さと面白さを巧みに表現しています。白鳥玉季は、大人びた表情で複雑な背景を持つほたるの聡明さを演じ切り、その演技力は高く評価されています。手越祐也もまた、若さや無邪気さが寵愛された時期を過ぎたゲイの内面の陰りを体現しており、及川、白鳥、手越の意外性のあるトリオが織りなす化学反応は、これまでにない新鮮さを生み出しています。
脇を固めるキャストも個性的です。玄一が思わず通ってしまう結婚相談所のカウンセラー・百瀬まどか(渋谷凪咲)が放つ名言は、物語にコミカルな彩りを添えます。また、逃亡中の母を追う刑事・松梅子(土居志央梨)も、どこかのんきな雰囲気を醸し出し、物語の奥行きを深めています。
まとめ
ドラマ「ぼくたちん家」は、夫婦、親子、家族といった既存の日本語の区分に違和感や疎外感を覚える全ての人々に、新しい人間関係の呼称と、温かい「居場所」のあり方を提案する作品です。及川光博の新たな一面、そして多様な価値観が交錯する現代社会を映し出すストーリーは、視聴者に深い共感と感動を与えることでしょう。この秋、日本テレビ系日曜22時30分から放送される「ぼくたちん家」をぜひご覧ください。
参考文献
- 吉田 潮(よしだ・うしお). テレビ評論家、ライター、イラストレーター. 「週刊新潮」2025年11月6日号 掲載.
- 新潮社.





