7月20日の参院選で注目すべき躍進を見せた参政党は、「日本人ファースト」を掲げ、選択的夫婦別姓反対、反ワクチン、外国人の受け入れ規制など、時に物議を醸す主張を展開してきました。しかし、その一方で女性を含む多様な支持層を獲得している点が特筆されます。その背景には、「オーガニック信仰」という一見政治とは無縁な要素に「保守思想」が後付けされた、特異な政治的スタンスが存在すると指摘されており、本稿ではその深層に迫ります。
参政党代表の神谷宗幣氏が街頭演説を行う様子。参政党の躍進を支える多様な支持層の一端を示す。
「オーガニック」が牽引する参政党支持層の広がり
参政党の支持拡大を支えるのは、オーガニックに関心を持つ層との深い繋がりです。ある政党幹部の妻がインスタグラムでオーガニック関連ページを閲覧中に、アルゴリズムによって「参政党」を頻繁に目にするようになったという事例は、この繋がりを示唆しています。この幹部経験者は、参政党がオーガニックに関心を持つ一定のボリューム層に深く食い込んでいると感じています。このことは、これまで参政党のイデオロギー的特徴として認識されてきた「反米保守」とは異なる、新たな支持層の獲得経路と言えるでしょう。
古谷経衡氏が読み解く「オーガニック右翼」の実像
ネット右翼や保守勢力に詳しい作家・評論家の古谷経衡氏の論考が、参政党の理解に大きく寄与します。古谷氏は、参政党が政党要件を獲得した2022年参院選の直後にヤフーニュースに寄せた記事で、同党を「単なる『ネット保守』政党ではない。全体としてみれば、オーガニック信仰を基調として、そこに保守的要素が『後付け』された異形の『オーガニック右翼(保守・右派)』と呼ぶべき右派政党」と位置づけています。
古谷氏の参政党論の概要は以下の通りです。「天皇を中心とした国家」をうたうなど、かつての石原慎太郎氏や平沼赳夫氏らの「太陽の党」や「次世代の党」に近い政策を持つ点は、同じ「ネット保守政党」に見えます。しかし、両党のように雑誌の「正論」や「WiLL」など、従来の保守論壇中央と呼ばれる岩盤層からは支持を得ておらず、その支持構造は大きく異なっていると分析されています。
政策と支持者像に見る「オーガニック信仰」の影響
参政党の最も大きな集票構造は「強烈な『オーガニック信仰』」にあります。参政党の三つの重点政策の二番目には「食と健康、環境保全」が明確に掲げられています。神谷宗幣氏は2022年参院選での千葉での街頭演説で、「子供にいいモノを食べさせたら、子供の病が減り、荒れなくなり、学力が上がります。医療費も下がるため、子供の医療費無償化をするのであれば、学校給食にお金をかけてください」と強く訴えました。これは典型的なオーガニック信仰の一種で、戦後の大量消費社会の亢進(こうしん)に疑問を示した先進国に住む、意識の高い比較的富裕な消費者層から始まった思想です。
さらに、熱心な参政党支持者の人々は、驚くほど政治的に無色であり、参政党を支持する以前は、政治そのものに関心がほとんどないため、政治的免疫がない人が多いという特徴が見られます。ヨガ教室に熱心に通い、自然食品を愛好し、個人経営の自然派喫茶店が行きつけであるとフェイスブックに書いていたような人々が、ある日突然、参政党のユーチューブに感化され、その動画をシェア・投稿し始める現象が多々見られるのです。
結論
これらの分析から、参政党の躍進は単なる伝統的な保守勢力の支持にとどまらず、「オーガニック信仰」という非政治的な関心を持つ層の心をつかんだことに起因していることが明らかになります。この「オーガニック右翼」とでも呼ぶべき独自の支持構造は、現代社会における政治と個人の価値観の新たな結びつきを示唆しており、今後の日本の政治動向を読み解く上で重要な視点となるでしょう。
参考文献
- 朝日新聞取材班『「言った者勝ち」社会 ポピュリズムとSNS民意に政治はどう向き合うか』(朝日新書)
- Yahoo!ニュース: https://news.yahoo.co.jp/articles/d3d7f5747b31333590a066aac0a111cd74e3d6d7