ドナルド・トランプ米大統領は22日、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」を通じて、日本との間で「大規模な」貿易合意に達したことを発表しました。この合意には、日本からの輸入品に対する15%の「相互関税」の導入と、日本による米国への5500億ドル(約80兆円)の投資が含まれるとされています。翌23日午前、石破茂首相もこの合意を正式に認め、その内容を歓迎しました。
トランプ大統領は、今回の合意により日本が米国製の乗用車、トラック、米、特定の農産物などに対して市場を開放すると言及。交渉を担った日本の赤沢亮正経済再生担当相は、23日朝のホワイトハウス訪問後、「任務完了」とSNSに投稿し、合意成立を示唆しました。トランプ大統領は22日夜のイベントで、「史上最大の貿易取引に署名した。おそらく日本との取引としては史上最大のものだろう」と述べ、「これは全ての人にとって素晴らしい取引だ」と強調しました。また、欧州連合(EU)との貿易取引も近日中に発表すると説明しました。
ドナルド・トランプ大統領と石破茂首相、日米貿易合意発表の記者会見で笑顔を見せる様子。
石破首相、日米貿易合意を歓迎し詳細を説明
石破首相は23日午前、記者団に対し、米国との関税交渉での合意を認め、トランプ大統領の発表を歓迎する意向を示しました。首相は、今回の「相互関税」15%について、「25%まで引き上げられる可能性があった日本への関税率を、15%に抑えることができた。これは対米貿易黒字を抱える国々の中で、これまでで最も低い数字だ」と評価。特に、日本製自動車および自動車部品に対する税率が、これまでの25%から15%に引き下げられることになり、「世界に先駆け、数量制限のない、自動車・自動車部品関税の引き下げを実現できた」と述べ、その成果を強調しました。
一方で、日本側の農産品関税については、「今般の合意には、農産品を含め、日本側の関税を引き下げることは含まれていない」と明言しました。首相は今回の合意が「関税より投資」という、自身が2月のホワイトハウス首脳会談でトランプ大統領に提案して以来、一貫して米国に働きかけてきた戦略の成果であると強調しました。
この発表は、20日投開票の参議院選挙で与党が議席を減らし、参議院全体で過半数を割ったことを受け、石破首相が進退について問われている中で行われました。首相は記者団からの質問に対し、「合意の結果を受けてどのように判断するかということになるが、合意の内容をよく精査しなければ申し上げることはできない」と回答していました。
経済専門家の見解と市場の反応
経済調査会社「オックスフォード・エコノミクス」の長井滋人氏は、主要関税率を15%に引き下げることは、日本にとって「現時点での最善の妥協策」であるとBBCニュースに語りました。また、今回の合意に含まれる日本のアメリカへの投資計画については、「米製造業を復活させ、雇用を創出するというトランプ氏が掲げる物語に合致するもので、アメリカの(景気)回復への大きな後押しとなるだろう」と分析しました。
トランプ大統領は今月初め、日本や韓国を含む14カ国に対し、8月1日までに新たな合意を締結できなければ高率関税を課すことを通告していました。特に日本と韓国からの製品には25%の関税を課す予定とされており、日本にとっては4月2日に発表された24%の「相互関税」案からさらに引き上げられる形でした。アメリカが日本から輸入する自動車には、すでに他国と同様に25%の関税が課されています。4月にトランプ大統領が発表した世界規模の関税計画は、国際市場の混乱を受けて90日間の一時停止措置が取られ、これにより日本の代表団は米国側と協議する時間を確保していました。
日米間の関税合意のニュースを受け、23日朝の日本の株式市場では、日経平均株価が約2%上昇しました。日本製自動車に対する関税が現行の25%から引き下げられる可能性がNHKによって報じられると、トヨタ、日産、ホンダなど自動車業界大手企業の株価は急騰しました。
フィリピンとの貿易協定についても言及
トランプ大統領は22日、フィリピンからの輸入品に対して19%の「相互関税」を課すことも発表しました。これは、トランプ大統領がホワイトハウスでフェルディナンド・マルコス・ジュニア比大統領と会談した後に明らかにされたものです。トランプ大統領は「素晴らしい訪問だった。我々は貿易協定を締結した」と「トゥルース・ソーシャル」に投稿し、フィリピンが米国製品に対する関税を撤廃し、両国が軍事協力を行っていくという、より広範な協定の一部として新たな関税が導入されると説明しました。
現時点では、トランプ大統領が主張するこの合意について、フィリピン政府からの公式な認可は発表されていません。19%の関税は、トランプ大統領が4月に発表した世界規模の関税政策の中で示された17%を上回る税率です。トランプ大統領は今月、フィリピンに送付した書簡の中で、フィリピンからの輸入品に20%の関税を課すと通告していました。フィリピンはアメリカにとって比較的小規模な貿易相手国であり、昨年は約142億ドル相当の製品をアメリカに輸出しています。主な輸出品目には、自動車部品、電気機器、繊維、ココナッツオイルなどが含まれます。
結論
今回の日米貿易合意は、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策と、日本の「関税より投資」戦略が交差する中で成立しました。特に、自動車および自動車部品への関税引き下げは日本経済にとって大きな追い風となり、一方で米国への大規模投資はトランプ政権の雇用創出目標に貢献すると見られています。石破首相にとっては、参議院選挙後の政治的逆風の中で、外交面での成果をアピールする機会となりました。この合意は、今後の日米関係、ひいては世界の貿易秩序にどのような影響を与えるのか、引き続き注視が必要です。
参照
- BBC News (英語記事): “Japan PM Ishiba welcomes Trump’s ‘massive’ trade deal announcement”, “Trump announces ‘massive’ trade deal with Japan”, “Philippines goods to face 19% tariff, Trump says”
- Yahoo!ニュース: https://news.yahoo.co.jp/articles/12d948e1e53a8d360dfa327468b7ec1b7f9a2d97