クマと人間の「戦争」激化:対策の最前線で揺れるハンターの現実と課題

日本全国でツキノワグマによる被害が過去最悪を記録し、クマと人間の関係はまさに「戦争状態」と表現されるほどの緊迫した状況にあります。政府は緊急の閣僚会議を開催し、クマ対策への本気度をアピールしていますが、駆除の最前線では地元ハンターたちの間に根深い問題が横たわり、対策の先行きに危うさが感じられます。本記事では、クマ対策を支えるハンターたちの厳しい現実、そして政府や自治体の対応が抱える課題について深く掘り下げます。

積丹町での「ハンターボイコット」騒動とその背景

北海道日本海側に位置する積丹町では、クマ駆除に従事するハンターが役場から不当な扱いを受けたとされ、猟友会が1カ月以上にわたり出動要請を拒否するという異例の事態が発生しました。この騒動は、積丹町議会の副議長によるハンターへの度を越した暴言が発端であり、日本のクマ対策が、いかに地元ハンターたちの「善意」と献身に依存しているかという現実を浮き彫りにしています。彼らの活動がなければ、地域住民の安全は一層脅かされかねない状況です。

ツキノワグマの警戒する様子を捉えた写真ツキノワグマの警戒する様子を捉えた写真

雀の涙ほどの駆除手当:ハンターが直面する経済的負担

クマ駆除の現場で活動するハンターたちに、各自治体から支払われる手当は「雀の涙に等しい」と指摘されています。例えば、北海道の一部の町では1頭捕獲につき5〜6万円が支払われるケースがある一方で、秋田市では1頭あたり1万円、日当に至っては8000円という自治体もあり、その金額には大きなばらつきが見られます。

岩手県の北上市猟友会会長である鶴山博氏(76)は、こうした手当が狩猟にかかる実際の経費の足しにもならない現実を訴えています。ライフル銃の弾丸1発が約750円、散弾銃のスラッグ弾なら1発800円から1000円にもなり、射撃練習で10発撃てばそれだけで8000円近い出費となります。さらに、ハンターは毎年約3万円の狩猟税を支払い、3年に一度の技能講習には2万円前後がかかります。銃本体も高価であり、1丁で20万〜40万円するのが一般的です。山道を車で移動するため、ガソリン代も無視できない負担となります。鶴山氏は、微々たる手当よりも、クマから身を守るための特殊ヘルメットやジュラルミン製の盾といった装備を行政が緊急予算で提供すべきだと強く主張しており、現場が殺人犯を捕らえるのと同等の危険に晒されているにもかかわらず、行政がその実態を把握できていない現状を厳しく批判しています。

クマ対策に関する政府閣僚会議の様子クマ対策に関する政府閣僚会議の様子

自衛隊派遣も「後方支援」止まり:法制度の壁と現場の実態

クマの脅威が国民の命を脅かす深刻なレベルに達していることから、秋田県は自衛隊の出動を要請しました。小泉進次郎防衛相(44)は、陸上自衛隊の部隊を秋田に派遣する意向を示しましたが、現行法では、クマなどの害獣を自衛隊が直接射撃することには多くの制約があります。このため、当面は箱わなの移送や設置など、いわゆる「後方支援」に徹するのが精一杯とされています。

自衛隊の専門部隊が直接的な駆除活動に参加できない現状は、法制度と現場の実態との間に大きな乖離があることを示しています。危険な最前線で活動するハンターの安全確保や、より効果的な駆除活動のためには、法制度の柔軟な運用や見直しが喫緊の課題と言えるでしょう。

クマの有害駆除にあたるハンターの様子クマの有害駆除にあたるハンターの様子

クマとの共存が困難を極める中、対策はもはや地域の問題に留まらず、国家レベルでの総合的な戦略が求められています。政府は、ハンターの経済的・精神的負担を軽減し、彼らが安全かつ意欲的に活動できる環境を整備するとともに、法制度の壁を乗り越え、より実効性のあるクマ対策を講じる必要があります。国民の命を守るため、そして現場で奮闘する人々を支援するために、一層の理解と行動が不可欠です。

参考文献