海に漂流・放棄された漁具、通称「ゴーストギア」は、世界各地で海洋生態系に壊滅的な影響を与えており、国際的な問題として深刻化しています。この問題に対し、世界自然保護基金(WWF)ジャパンは、長崎県五島市で実地調査を実施。その現場からは、漁網やサンゴなどが複雑に絡み合った3メートルに及ぶ巨大な塊が発見され、ゴーストギアの実態が改めて浮き彫りとなりました。
海洋生態系を脅かす「ゴーストギア」の現状
海に流出または放棄された漁具に由来するプラスチックごみは「ゴーストギア」と呼ばれ、海洋プラスチックごみ全体の約1割を占めるとされています。これらのゴーストギアは、海底に沈んだ後も魚介類を捕獲し続ける「ゴーストフィッシング」を引き起こすだけでなく、船舶の航行を妨げたり、沿岸地域の観光や経済に悪影響を及ぼしたりするなど、その被害は多岐にわたります。
日本の海岸においても、この問題は顕著です。環境省が2022年度に実施した漂着ごみ組成調査によると、海岸に漂着したプラスチックごみのうち、漁具やブイといった漁業系プラスチックごみが重量比で5〜6割を占めていることが判明しています。
WWFジャパンの取り組みと五島市での調査
こうした状況を受け、WWFジャパンは2023年7月に専門チーム「ゴーストギア調査隊」を立ち上げました。そして2025年7月10日、長崎県五島市の多々良島周辺において、地元漁業関係者、ダイバー、五島市といった関係機関の協力を得て、ゴーストギアの実地調査および回収活動を実施しました。
長崎県五島市沖でWWFジャパンが引き上げた巨大なゴーストギアの塊
調査現場では、高さ3メートル、幅1メートルにも及ぶ巨大な塊が発見されました。この塊は、漁網を基盤に、ロープ類、プラスチック製のかご、生活ごみ、さらにはサンゴの断片、藻類、海綿などが複雑に絡み合ったものでした。今後、回収されたこれらのごみは洗浄・分別され、その組成や由来の特定が進められる予定です。
WWFジャパン自然保護室海洋水産グループのヤップ・ミンリー氏は、今回の調査結果について次のようにコメントしています。「これまで見過ごされがちだったゴーストギアの実態が、少しずつ明らかになってきました。しかし、持ち主不明の大型ゴーストギアの回収には、想像以上の費用や手間が伴うという困難さも痛感しています。漁業活動や船舶の安全な航行、そして海洋環境への深刻な影響を考慮すると、行政による積極的な関与が不可欠であることを改めて実感しています。」
結論
今回のWWFジャパンによる五島市での調査は、海洋を漂流・放棄される「ゴーストギア」が日本の沿岸域でも深刻な問題であることを浮き彫りにしました。この問題の解決には、個々の努力だけでなく、漁業関係者、環境保護団体、そして地方自治体や国といった多岐にわたる主体の連携と、特に費用や手間を伴う大型ゴーストギアの回収に対する行政の積極的な支援が不可欠であると言えるでしょう。
参考文献
- Yahoo!ニュース: 「ゴーストギア」深刻化する海洋汚染:WWFジャパン五島調査で3mの巨大塊を発見 (元の記事へのリンクは省略)