ソーシャルメディア上で拡散された「7月5日に日本で大災害が起きる」という根拠のないデマは、日本の観光業界に深刻な影響を及ぼしています。特に訪日観光客数の減少が顕著であり、デマが終息した後もその余波は続いています。この誤情報がどのようにインバウンド需要を冷え込ませ、経済に具体的な損失をもたらしているのか、その詳細を報じます。
デマによる訪日客の急減と業界への影響
「7月5日に日本で大災害が起きる」という噂は、結果として事実無根のままその日を過ぎました。しかし、このデマはアジア各国の旅行者の間で不安を広げ、日本への渡航を躊躇させる要因となりました。鎌倉小町通りで練り物専門店を営む「鎌倉小町通り あさひな」の松田健志店長は、「中国系の人が減ったのは分かりましたね。(売り上げが)2〜3割は減ったかな」と、現場での売り上げ減少を証言しています。台湾からの観光客も「日本に来るのが怖かったわ。7月5日までカウントダウンをしてたの。夜も寝られなかった」と、当時の不安な心境を明かしました。
日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2024年6月の香港からの訪日客数は、前年同月比で33.4%もの大幅な減少を記録しました。これは、デマが直接的に旅行需要に打撃を与えた明確な証拠と言えるでしょう。
日本の人気観光地を訪れる外国人観光客の様子。デマによる訪日客減少の影響が懸念される。
航空会社の対応と「噂終結日」キャンペーン
観光客の減少を受け、航空業界にも影響が広がっています。香港の航空会社であるグレーターベイ航空は、鳥取県の米子空港と香港を結ぶ国際定期便を9月から運休することを決定しました。
こうした厳しい状況の中、香港の旅行会社は訪日客誘致のため、ユニークな割引キャンペーンを実施しています。デマのきっかけとなった漫画「私が見た未来」をパロディ化した「私が見た最低日本価格」と題し、香港発成田空港行きの往復航空券を驚きの約6500円で提供するなど、大幅な割引を行いました。また、デマが終息したことを強調するため、「噂終結日」と名付けられたキャンペーンも登場し、心理的な障壁を取り除こうと努めています。マレーシアからの観光客からは「日本に来るのは不安だった。電車を乗る時も不安で海を見たわ」との声もあり、アジア全体で広がった不安を払拭する狙いが見えます。
香港の航空会社が実施した「私が見た最低日本価格」と銘打たれた、予言漫画をパロディ化した格安航空券キャンペーンの広告画像。
専門家が指摘する経済的打撃と今後の見通し
今回のデマ騒動が日本のインバウンド需要に与える影響は甚大です。野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストである木内登英氏は、今回の予言騒動によって、日本のインバウンド需要が約5600億円ものマイナスとなる可能性を指摘しています。同氏は「秋口にかけて、訪日客の訪日控えと国内での需要の低下の影響が残るのではないか」と述べ、短期的な回復は難しいとの見方を示しました。
デマという根拠のない情報が、これほどまでに大きな経済的損失と社会的な不安を引き起こすことは稀有なケースであり、情報の正確性と透明性の重要性を改めて浮き彫りにしています。
結論
「7月5日大災害」というデマは、日本を訪れる外国人観光客の心理に深く影響を及ぼし、具体的な経済的損失をもたらしました。特に香港からの訪日客の急減は、デマの影響の大きさを物語っています。航空会社や旅行会社が割引キャンペーンを通じて回復に努めているものの、専門家は5600億円規模の経済損失の可能性を指摘しており、影響は秋口まで尾を引くことが予想されます。正確な情報発信と、観光業界全体の連携が今後の回復に向けた鍵となるでしょう。
参考資料
- FNNプライムオンライン
- news.yahoo.co.jp/articles/674da0150459e7ff883cfae2ff689af3e3788d51