中国芸能界に激震が走っています。人気歌手・俳優として活動し、当時16歳の少女を殺害した罪に問われていた張芸洋(チャン・イーヤン、34)被告の死刑が執行されたと、中国を含むアジア圏の複数のメディアが報じました。この事件は、中国の厳しい芸能界の規制やその「あり方」に大きな問いを投げかけています。
事件の経緯と詳細:16歳少女殺害の背景
陝西省咸陽裁判所が発表した文書によると、張被告は2022年2月26日、当時交際していた少女を隠し持っていた折りたたみナイフで複数回切りつけ、左首、気管、食道などに損傷を与え、窒息死させました。殺害後、被害者の携帯電話を奪って池に捨てるなど、証拠隠滅を図ったと見られています。その後、被告は逃亡先のホテルで少女を殺害したナイフで自殺を図りましたが、従業員に発見され、病院での治療後に逮捕されました。
大手紙国際部記者によると、張被告は中国のSNS「Weibo」で55万人を超えるフォロワーを持つ人気歌手でした。被害者の少女とは約5か月間交際していましたが、少女が別れを申し出たことを被告は拒否。自身の誕生日を口実に少女を山に呼び出し、犯行に及んだとのことです。2023年の第一審で死刑判決が下されましたが、被告は不服として控訴。しかし、2024年の第二審で判決は覆らず、同年12月18日に死刑が執行されました。
中国で死刑が執行された元人気歌手・張芸洋被告の顔写真。中国芸能界の厳格な規制と事件の波紋を示す象徴的な一枚。
厳格な中国芸能界と「ブラックリスト制度」
張被告は2012年に芸能界入りし、2015年に音楽アルバムをリリースして歌手デビュー。2018年には中国の大ヒットソングをカバーして大きな注目を集めました。中国で芸能人の死刑が執行されるのは史上初めてのことで、ネット上では大きな議論が巻き起こっています。
中国の芸能界は当局からの規制が非常に厳しく、芸能人が非倫理的な行為などをした場合、重い罰を科した上で芸能界から事実上追放する「ブラックリスト制度」が存在するとされています。実際、過去には中国舞台芸術協会が、国の道徳的規範に違反しているとして88名の芸能人がブラックリスト入りしたと公表しています。
また、2020年には女優の鄭爽(ジェン・シュアン)がアメリカで代理母出産により2児をもうけた上で養育を放棄していたことが発覚し、さらに1.91億元(約39億円)の脱税も明らかになりました。これに対し政府は罰金として2.99億元(約61億円)の支払いを命じ、国務院直属の機関である「国家ラジオテレビ総局」は彼女を名指しで批判しました。結果として、彼女の出演作品は動画プラットフォーム上から次々と削除され、事実上の芸能界追放となりました。
公開遅延と二重基準への疑問
このような厳しい前例があるため、張被告が関与した作品の処遇にも注目が集まっています。死刑執行からその事実が明らかになるまでに、実に7か月もの時間が経過していました。その間、彼が出演した映画作品や音楽アルバムなどはまだ削除されていませんでした。さらに、今年の3月には彼が出演した映画が公開され、物議を醸していました。
ネット上では、「芸能人としてのブラックリスト入りはされないのか?」「ダブルスタンダードではないのではないか?」など、当局の一貫性に疑問を呈する声が上がっています。
まとめ
今回の張芸洋被告の死刑執行は、中国全土に衝撃を与え、単なる凶悪事件としてだけでなく、中国芸能界が抱える厳格な規制、情報統制、そして場合によっては不透明な運用実態といった「あり方」そのものに、国内外から改めて大きな問いを投げかける事態となっています。今後、中国当局がこの問題にどのように対応していくのか、引き続き注視が必要です。
Source: https://news.yahoo.co.jp/articles/404296f23fa7863b2c129874301e25e1775316e5