大分県にとって長年の課題であった大分空港と県都・大分市内間のアクセス問題を劇的に改善するとして期待を集める「ホーバークラフト」。その国内唯一の定期便が、2025年7月26日にいよいよ就航を迎えます。フェリーの約3倍の速さで水上を疾走し、さらには陸地への乗り入れも可能なこの特殊な船は、地域の交通体系に大きな変革をもたらすでしょう。しかし、当初「2023年度就航」と発表されて以来、「2024年度中」「2024年内」「2024年3月」と、その就航見通しは度々変更されてきました。なぜ、これほどまでに就航延期が繰り返されたのか。その背景と、新時代のホーバークラフトにかける地域の期待を探ります。
ホーバークラフトの「速さ」と「特徴」
ホーバークラフトは、船底に圧縮した空気を送り込み、「スカート」と呼ばれる柔軟な構造体の内部に空気のクッションを作り出すことで、水面から浮上して進む特殊な船です。これにより、水面との摩擦抵抗をほとんど受けずに高速航行が可能となり、最高時速約83km(40ノット)に達します。また、この浮上走行の特性から、水上だけでなく砂浜などの陸地にも乗り入れることができる点が最大の特徴です。かつてはイギリスのドーバー海峡や日本国内の宇高航路など、世界各地で運航されていましたが、2025年7月26日時点での定期航路は、イギリスのワイト島と大分空港を結ぶ航路のわずか2箇所のみと、極めて希少な存在となっています。
大分空港と市内を結ぶ新ホーバークラフト「Baien」の砂浜着陸訓練風景
大分空港アクセス改善への「切実なニーズ」
大分県が大分空港へのホーバークラフト運航にこだわる理由は、ひとえに「所要時間の短縮」にあります。大分空港は県都・大分市から北東に60km以上離れており、連絡バスでは約1時間を要します。加えて、九州横断道などの交通渋滞や、霧による速度制限で遅延が発生し、予約便に乗り遅れる事態も起きていました。
一方、大分市と大分空港の間にある別府湾を横切れば、直線距離は約30km。2009年まで運航されていた「大分ホーバーフェリー」は、この区間をわずか25分で結び、移動時間を大幅に短縮していました。廃止された旧ホーバーフェリーの背景には、大分空港の利用者低迷による採算悪化に加え、製造元である三井造船のホーバー事業撤退とメンテナンス打ち切りという避けられない事情がありました。しかし、近年、大分空港の利用者は増加に転じており、交通渋滞を避け、バスよりも速く空港へアクセスできるホーバークラフトの復活を望む声が高まったことが、十数年ぶりの再就航に繋がりました。
過去の廃止と「再就航の複雑な道のり」
過去のホーバークラフト廃止は、単に採算の問題だけでなく、技術的な維持管理の困難さも一因でした。特殊な構造を持つホーバークラフトは、専用の技術と部品供給が不可欠であり、製造元の事業撤退は運行継続にとって致命的でした。今回、大分県がイギリスのグリフォンホバーワーク社から新たな船体を購入し、運行を再開するにあたっても、その道のりは決して平坦ではありませんでした。
新規で特殊な交通システムを導入し、安全基準を満たすための調整、人員の育成、そしてインフラ整備など、多岐にわたる課題をクリアする必要がありました。就航見通しが二転三転したのも、こうした複雑な導入プロセスと、最新の安全基準への適合、そして世界でも稀有な技術を持つシステムを日本国内で運用するための調整に時間を要した結果と見られます。関係者は、3年越しの本格就航決定に安堵の胸をなでおろしており、その裏には多くの苦労と調整があったことが伺えます。
まとめ
大分空港ホーバークラフトの再就航は、単なる交通手段の復活に留まらず、大分県における空港アクセスの画期的な改善であり、地域の経済活性化、観光振興に大きく寄与する可能性を秘めています。度重なる延期を経て実現するこのプロジェクトは、ホーバークラフトという特殊な技術が持つ課題と、それを克服して地域に新たな価値をもたらそうとする関係者の強い意志を物語っています。2025年7月26日からの運行開始は、大分県民のみならず、多くのビジネス客や観光客にとって、より快適で効率的な移動を実現する新たな時代の幕開けとなるでしょう。今後の安定した運行と、地域への貢献が期待されます。