志望校選びの真髄:東大生が語る「鶏口牛後」だけではない真の成長とは?

三田紀房氏の人気受験漫画『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生である土田淳真氏が教育と受験の「今」を深く掘り下げます。今回のテーマは、自分自身を真に高めるための「志望校選び」についてです。龍山高校の生徒たちが「入試問題を自ら作問する」という課題に挑む中で、桜木建二は学校が「自分を高めてくれる相手との出会いの場」であると強調しました。この考え方を基に、私たちは単なる学力偏差値だけにとらわれない、より本質的な学校選びの視点を探ります。

「鶏口となるも牛後となるなかれ」:受験における選択の悩み

古くから伝わる「鶏口となるも牛後となるなかれ」という故事成語は、「大きな集団の末端にいるよりも、小さな集団の頂点に立つ方が良い」という意味を持ちます。受験生とその保護者にとって、この二つの選択肢の間で迷うことは少なくありません。例えば、「偏差値の高い難関校に入れば成績が下位になるかもしれないが、少しレベルを落とせばトップ層になれる」といった状況に直面した際、どちらの道を選ぶべきかという問いに明確な「正しい答え」は存在しません。

学力だけではない:模試偏差値と入学後の実力

中学受験や高校受験における学校選びを、大学受験の結果から考察してみましょう。ごく大雑把に言えば、開成や灘、桜蔭といったトップレベルの学校の中間層と、中堅校のトップ層の生徒たちは、模擬試験の偏差値や入試の合格ラインにおいて、実は同じレベルにあることが多いのが実情です。また、入学時点での成績がそのまま卒業時の成績に直結するわけではありません。特定の学校の生徒が入塾試験を免除されるケースもありますが、それは塾の運営効率化が主な目的であり、受験生個人の能力を保証するものではありません。大学入試という観点から見れば、入学後の学力的な成長には大きな差がないと考えることもできるでしょう。

リーダーシップを育む環境:イベント運営で輝く人材

むしろ、学力以外の側面に着目することが、より有意義な志望校選びに繋がります。例えば、文化祭や体育祭といった学校行事の運営を考えてみましょう。レベルの高い学校ほど組織化が進み、運営には優秀な人材が集まる傾向にあります。そのため、組織全体としての自由度は高いかもしれませんが、一人の生徒が大きな改革を成し遂げるのは難しく、自分がその「一人」になれるとは限りません。

もしあなたが「イベントに積極的に関わり、ゼロから何かを作り上げるのが好きだ」というタイプであれば、あえてレベルを抑えた学校を選ぶのも一つの手です。自分の力で動かせる範囲が広く、その組織の中でトップの役割を担える確率も高まります。「勉強もそつなくこなし、運動や行事にも率先して取り組む」オールマイティー型の人材であれば、「鶏口」の環境でこそ、その能力を最大限に生かせるでしょう。組織を牽引する経験は、卒業後も大きな財産となります。

専門分野を極める:真の「神童」との出会いを求めて

一方で、「これだけは誰にも負けない」という強い興味関心を持つ専門分野があるならば、トップ校への進学を強くおすすめします。なぜなら、そこには同じ分野で高い自信を持つ仲間と出会える可能性があるだけでなく、何よりも異なる分野でトップレベルを目指す同年代の「神童」たちと出会う機会が豊富だからです。科学オリンピックの入賞者を見ると、やはりトップ校の生徒たちが目立つのはそのためです。

全ての分野で80点を出せるようなバランス型であれば中堅校へ、どれか一つでも120点を出せるような突出した才能があるならばトップ校へ。私の実感としては、極端にまとめるとこのような判断基準が挙げられます。要するに、自分以外の「神童」とどこで出会い、共に刺激し合えるかが重要なのです。

漫画『ドラゴン桜2』の表紙イラスト漫画『ドラゴン桜2』の表紙イラスト

結論:成績だけでなく「自分」の個性を大切に

中学・高校時代に多様な世界を知るのか、あるいは大学受験を経て初めて広い世界に触れるのか。はたまた、その先に同世代のトップを目指すのか。受験というと成績や偏差値だけで考えがちですが、志望校選びにおいては自分の性格や将来何を成し遂げたいかといった「自分自身」の個性を大切にすることを忘れてはなりません。学力向上だけでなく、人間的な成長を促す最適な環境を見つけることが、真に価値ある志望校選びへと繋がるでしょう。