【実録】「偽探偵詐欺」の巧妙な手口と、不倫の不安につけ込まれた妻の悲劇

吉本でお笑いコンビ「オオカミ少年」として活動する傍ら、探偵事務所の代表も務める筆者です。探偵として十数年の経験を持つ中で、近年特に増加しているのが「探偵にだまされた」という二重被害の相談です。本来、探偵は依頼者の不安を解消し、真実を明らかにするための存在であるべきですが、残念ながら世の中には、その弱みにつけ込み、さらなる苦痛を与える悪質な業者が存在します。今回は、私が実際に担当した「偽探偵詐欺」に巻き込まれた依頼者のケースと、その背後に潜む巧妙な手口の一部始終をお伝えします。これは、現代社会における信頼の危機と、情報過多の中でいかに真実を見抜くかの重要性を浮き彫りにする実話です。

夫の異変と募る不安:SNSで見つけた「不倫前兆10カ条」の罠

鎌田紗希子さん(37歳)は、夫・洋蔵さん(41歳)の異変に悩まされていました。以前はなかった深夜の帰宅が増え、スマートフォンは指紋認証で厳重にロックされ、見慣れない柔軟剤の香りをまとって帰宅する日もありました。夫婦の会話は極端に減り、洋蔵さんは「仕事が忙しい」と言っては自室に引きこもるようになりました。紗希子さんの心には、寂しさと共に拭いきれない疑念が募っていきました。

不安と孤独に耐えきれなくなった紗希子さんは、毎晩のようにスマートフォンで「夫の浮気」「不倫のサイン」といったキーワードでSNS投稿を検索する日々を過ごしていました。そんなある夜、紗希子さんの目に飛び込んできたのが、「S探偵社」が投稿していた「夫の不倫前兆10カ条」でした。

【夫の不倫・前兆10カ条】
1.スマホのロックが厳重になる
2.帰宅が遅くなる
3.香水や柔軟剤の香りが変わる
4.急に外見を気にし始める
5.妻に関心がなくなる
6.お金の使い道が不明になる
7.休日出勤が増える
8.スマホを肌身離さない
9.目を合わせなくなる
10.「疲れた」と言い訳することが増える

「3つ以上当てはまれば不倫率80%超」という文言に、紗希子さんは衝撃を受けました。洋蔵さんの場合、このうち5つも当てはまっていたのです。その瞬間、紗希子さんの心臓は大きく鳴り響き、「もう、これは不倫確定なのかもしれない……」という絶望的な確信が脳裏をよぎりました。

深夜のメッセージが招いた「さらなる裏切り」:偽探偵の甘い誘い

紗希子さんは、洋蔵さんとの楽しかった旅行の思い出や、優しかった日々を必死に思い出し、夫の急変が自分に原因があるのかもしれないと自問自答を繰り返していました。専業主婦である自分が離婚したらどうなるのかという経済的な不安も大きく、これまで不倫の疑念をかき消そうとしてきました。しかし、「不倫前兆10カ条」の投稿が、抑えきれない怒りの炎を心の中で燃え上がらせました。

真実を明らかにせずにはいられないという強い思いに駆られた紗希子さんは、S探偵社へ「夫の不倫について相談したいのですが」とダイレクトメッセージを送りました。これが、彼女にとってさらなる裏切りの始まりでした。

夫の不倫に悩む妻がSNS上の探偵社へメッセージを送るイメージ。悪質な偽探偵の誘いに注意が必要。夫の不倫に悩む妻がSNS上の探偵社へメッセージを送るイメージ。悪質な偽探偵の誘いに注意が必要。

メッセージを送信したのが深夜にもかかわらず、わずか数分後にS探偵社から返信が届きました。
「メッセージありがとうございます。おつらい状況にあることお察しします。ご安心ください、もし不倫であれば必ず証拠を押さえます。私たちにお任せください。前兆10カ条に3つ以上当てはまるようでしたら、一刻も早く調査することをお勧めいたします」

この素早い、そして一方的に安心感を煽る返信は、藁にもすがる思いの紗希子さんにとって、一見すると救いの手に見えました。しかし、この甘い言葉の裏には、依頼者の心の隙につけ込む悪質な「偽探偵」の巧妙な手口が隠されていたのです。

本物の探偵が警鐘を鳴らす:「偽探偵」から身を守るために

紗希子さんがS探偵社から受けたような、不安を煽り、即時の契約を促すような対応は、悪質な「偽探偵」の典型的な手口です。彼らは、SNSなどで「不倫のサイン」といった心理的に動揺を誘う情報を発信し、それに反応した人々の切迫した状況を利用します。

私のような本物の探偵は、依頼者の抱える不安や疑念に真摯に向き合い、まずは状況をじっくりとヒアリングすることから始めます。焦って契約を迫ったり、根拠のない「確実な証拠」や「高い成功率」を安易に約束することはありません。むしろ、調査の難易度、必要な期間、費用、そして依頼者が直面するかもしれないリスクについて、具体的に、そして透明性を持って説明します。

今回の紗希子さんのケースは、心の弱みにつけ込まれる「二重被害」の恐ろしさを示唆しています。探偵選びにおいては、感情的な判断ではなく、冷静な視点と慎重な情報収集が不可欠です。

信頼できる探偵選びの重要性

不倫の疑念は、夫婦関係だけでなく、依頼者自身の精神にも大きな負担をかけます。そのようなデリケートな状況だからこそ、探偵選びは極めて重要です。残念ながら、紗希子さんのようにSNSやネットの情報を鵜呑みにし、悪質な業者に騙されてしまうケースが後を絶ちません。

信頼できる探偵事務所は、単に「証拠を押さえる」だけでなく、依頼者の心のケアにも配慮し、秘密厳守を徹底します。また、料金体系が明確であり、契約内容について十分な説明責任を果たします。

今回の紗希子さんの経験から学ぶべきは、いかに巧妙な手口で偽探偵が私たちを陥れようとするか、そしてその被害から身を守るためには、どのような点に注意すべきかということです。不安な時こそ、焦らず、信頼できる情報源と専門家を見極める冷静な判断力が求められます。