「やらかしCEO」続出:不倫、暴言、不祥事の裏に潜む「自己認識の欠如」とは

アメリカ社会は今、自らの「幻想」に酔いしれ、深い思考力を失いつつある。AirPodsが「ここにいること」と「いないこと」の境界を曖昧にし、SNSが中身よりも見せかけの虚勢を称える中で、真のリーダーシップとは何かが見失われがちだ。そんな状況下で、政治家や評論家、あるいはソーシャルメディアの投稿ですら成し得なかったことを、ある一本の動画がやってのけた。それは、分断された国民を「ミーム」という共通の笑いとともに一体化させたのである。

コールドプレイのコンサートで撮影された「あの」キスカム動画は、単なるSNS上での失態を超え、現代のリーダーたちに共通する決定的な欠如――「自己認識の欠如」を映し出す鏡となった。

コールドプレイ・コンサートの「キスカム」が映し出したもの

動画に登場した女性が、アストロノマー社の最高人事責任者(Chief People Officer)であったという事実は、この出来事を一層皮肉なものにしている。彼女は企業文化を守り、組織の価値観に基づいて人材を束ねる役割を担っていたはずだ。掲げる理念と実際の行動との間に、これほど露骨なズレが示された例は稀だろう。

これはコメディ番組の一幕ではない。これは2025年のアメリカ社会の現実だ。リーダーの「盲点」は、もはや個人の問題に留まらない。それは組織の信頼を破壊し、取締役会の健全性を蝕み、権力層と一般の人々との分断をさらに深める原因となっている。

後を絶たない「やらかしCEO」の実例

こうした事例は後を絶たない。米大手百貨店チェーンのコールズ(Kohl’s)では、CEOがわずか4か月で解任された。理由は、交際相手が経営する業者に数百万ドルを不正に流用していたことが発覚したためだ。

コールドプレイのコンサート会場でキスカムに映し出されたアストロノマー社CEOアンディ・バイロンと最高人事責任者クリスチャン・キャボット氏。リーダーの自己認識の欠如を象徴する出来事。コールドプレイのコンサート会場でキスカムに映し出されたアストロノマー社CEOアンディ・バイロンと最高人事責任者クリスチャン・キャボット氏。リーダーの自己認識の欠如を象徴する出来事。

インテリア家具ブランドを展開するミラーノル(MillerKnoll)のCEOは、従業員にボーナスの返上を求める一方で自身の報酬は維持し、「愚痴を言うな」と発言して大炎上した。また、イギリスの石油企業BPのバーナード・ルーニー、ノーフォーク・サザン鉄道のアラン・ショウ、マクドナルドのスティーブ・イースターブルックといった有名経営者たちは、いずれも部下との不適切な関係が原因で職を追われている。

これらは偶然の一致ではない。そこには共通した構造が存在する。権力と称賛に包まれたリーダーたちは、次第に自分が「見えない存在」であり、「罰されない存在」であり、「自ら定めたルールの例外」になったと錯覚していくのだ。

「自己認識」がリーダーシップの背骨である理由

自己認識(セルフアウェアネス)は、単なる「ソフトスキル」ではない。それはリーダーシップの背骨そのものである。しかし、心理学者タシャ・ユーリックの調査によれば、「自分は自己認識がある」と答えた人は実に95%にも上るにもかかわらず、実際にそう言える人はわずか10%から15%にすぎないという。

また、米調査会社ハイドリック&ストラグルズが実施した、7万5000件を超えるリーダー評価の分析でも、自己認識のあるリーダーはたった13%にすぎなかった。これは単なる「自己認識のギャップ」などではない。それは警鐘どころか、今まさに非常ベルが鳴り響いている状態を示している。この危機は経営陣だけの問題に留まらず、文化そのものが感染していると言えるだろう。キュレーションされたSNSフィードの投稿と、アルゴリズムによる拍手喝采に溺れる時代において、現実から目をそらしているのは、もはやリーダーだけではないのかもしれない。

参考資料

  • Newsweek Japan (Original Article)