習近平「失脚説」の真相:揺るがぬ権力と専門家の見解

政権発足13年目を迎えた中国の習近平国家主席に関する「失脚説」が、国内外で再び注目を集めています。今年5月に一部の反中メディアで最初に報じられた際は一過性の噂と見なされていましたが、最近になり米国の元高官が再びこの説に言及し、さらに習主席がブラジルで開かれた新興国グループ「BRICS」首脳会議を欠席したことで、ソーシャルメディア上で大きな話題となりました。しかし、長年中国を注視してきた欧米や台湾の専門家たちは、この「習近平失脚説」に対して懐疑的な見方を示しており、その背景には根拠のない希望的観測が混じっていると指摘しています。本稿では、この失脚説の経緯と、専門家がその信憑性を否定する具体的な理由について深く掘り下げていきます。

中国共産党の習近平国家主席の権力構造と、国内外で議論される失脚説のイメージ中国共産党の習近平国家主席の権力構造と、国内外で議論される失脚説のイメージ

「失脚説」再燃の背景と米国元高官の主張

習近平国家主席の失脚説に再び火をつけたのは、ドナルド・トランプ前政権で元大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を務めたマイケル・フリン氏のX(旧ツイッター)への投稿でした。フリン氏は6月27日、「中国国内で権力移動が起きている」と投稿し、憶測を呼びました。

さらに、グレゴリー・スレイトン元バミューダ総領事も6月28日付のニューヨークポストへの寄稿で、習主席の健康状態が思わしくなく、8月に開催が予想される中国共産党第四回党中央委員会全体会議(四中全会)で退任する可能性があると主張しました。スレイトン氏は、胡錦濤前主席を含む共産党の元老たちが習主席失脚の裏に存在し、改革派として知られる汪洋元中央政治局常務委員が次期指導者になると予測しました。また、軍に対する権限は中央軍事委員会副主席の張又侠氏の手に渡ったとも言及しました。これらの主張は、概して米国内の反中メディアがこれまで繰り返し唱えてきた内容と軌を一にするものでした。

台湾の専門家が語る「失脚説」の信憑性

中国の権力層の動向に関する報道では、中国と対峙する立場にある台湾の情報が比較的正確であると評価されています。しかし、台湾では習近平国家主席の失脚説を巡る報道は極めて少なく、その信憑性が疑問視されています。台湾国際放送(RTI)も7月2日、米国の元官僚が失脚説を主張したことに対し、「健康問題の他に習主席の権力を脅かす要因は全くない」との見解を示しています。

蔡文軒氏(中央研究院研究員)の見解:権力弱体化の兆候なし

台湾の著名な中国政治専門家の一人である中央研究院の蔡文軒研究員は、習近平失脚説の信憑性について強く否定しています。同氏によると、中国共産党の機関紙である人民日報や国営放送の中国中央テレビ(CCTV)など、官営メディアに登場する習主席関連の報道頻度は全く減少していません。最近では、習主席の「生態文明」に関する語録が出版されたことからも、その健在ぶりと権力基盤の強固さがうかがえます。

蔡研究員は、米国の元官僚が主張する内容について、「信憑性が低い」と断言しています。特に、胡錦濤前主席が失脚説の背後にいるという説や、汪洋氏が後継者になるという説に対しても具体的に反論しました。蔡氏によれば、胡錦濤前主席は現在、健康状態が悪く、認知症を患っている可能性が高いとされています。さらに、胡錦濤氏が国家主席在任中も江沢民元主席の勢力に押され、その影響力が限定的であったことを指摘し、退任後に習主席を失脚させるほどの力があるとは考えにくいと述べています。また、汪洋氏についても胡錦濤前主席とはそれほど近い関係ではないとしています。蔡研究員は、現在の習近平氏の権力は非常に強固であり、これを脅かす明確な挑戦勢力は存在しないと結論付けています。健康上の問題がない限り、習主席が2032年まで政権を維持することも不可能ではない状況だと分析しています。

郭瑞華氏(元法務部調査局処長)の見解:公開の頻度と報道に変化なし

米国の連邦捜査局(FBI)に類似する台湾の法務部調査局で、かつて両岸情勢(中台関係)研究分析処長を務めた郭瑞華氏もまた、習近平国家主席の権力弱体化の兆候は見られないという見解を示しています。同氏も、習主席が公開の場に登場する頻度や、官営メディアにおける報道の量と内容は全く減っておらず、権力基盤が揺らいでいる兆候は一切確認できないと強調しています。郭氏は、中国分析業務に長年携わってきた経験から、こうした情報が権力の実態を反映していると見ています。

結論

習近平国家主席の「失脚説」は、一部の反中メディアや米国元高官の発言によって拡散されましたが、中国政治を長年専門的に分析してきた欧米や特に台湾の専門家からは、その信憑性について強い疑問が呈されています。中国の官営メディアにおける習主席の露出頻度の維持、新著の出版、そして専門家による詳細な分析は、彼の権力基盤が依然として揺るぎないものであることを示唆しています。胡錦濤前主席の現在の影響力の欠如や、汪洋氏との関係性など、失脚説を裏付ける具体的な根拠は見当たらないというのが、現状における専門家の共通認識です。今後も中国の政治動向には注目が集まりますが、現時点では習近平氏が強固な権力を握り続けているとの見方が優勢です。


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