劇場版『鬼滅の刃 無限城編』我妻善逸と獪岳、秘められた“心の闇”とは

2025年7月18日の公開以来、社会現象となる大ヒットを記録している『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』。本作では、我妻善逸と上弦の陸・獪岳による壮絶な戦闘が繰り広げられ、彼らの因縁に決着がつくことになります。対照的な運命を辿ったと見られがちなこの二人ですが、実はその生い立ちや境遇には驚くほど多くの類似点が存在します。一歩間違えれば、善逸もまた獪岳と同じ“闇堕ち”の道を歩んでいた可能性があったとも推測できます。

我妻善逸の孤独と心の渇望

我妻善逸は幼少期に孤児となり、実の親を知ることなく育ちました。この過去が起因するのか、彼は常に人からの愛情に飢え、誰かとの繋がりを強く求める傾向があります。公式ファンブック『鬼殺隊見聞録』によると、その恋愛運も芳しくなく、これまでに交際した7人の女性全てに騙され、奴隷のように扱われる関係に陥っていたと明かされています。借金で人生が破滅寸前だった彼を救い、鬼殺隊の“育手”として導いたのが、師匠である桑島慈悟郎でした。善逸の心には、常に満たされない孤独と愛情への渇望が根深く横たわっていたのです。

鋭敏な聴覚がもたらす心の闇

善逸の特異な能力である優れた聴覚は、彼に孤独感を深める一因ともなりました。公式ファンブック『鬼殺隊見聞録・弐』に収録された「大正コソコソ噂話」によると、女性たちが表では彼を褒め称えながら、裏では見下し嘲笑しているのを耳にしてしまうことがあり、それが原因で一時的に女性恐怖症に陥っていた時期もありました。

劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来のメインビジュアル。我妻善逸と獪岳の因縁の対決が描かれる本作の象徴的な画像。劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来のメインビジュアル。我妻善逸と獪岳の因縁の対決が描かれる本作の象徴的な画像。

さらに、「無限列車編」で眠り鬼・魘夢の血鬼術によって描かれた善逸の「無意識の領域」は、彼の“心の闇”を象徴していました。そこは何も見えない真っ暗闇の空間であり、炭治郎や伊之助の無意識の領域と比較しても、その異質さは際立っています。夢の中に入り込んだ魘夢の刺客は、「息苦しい」「体が重たい」とその異常性を表現しており、これは善逸が抱える深層心理の苦しみを如実に表していると言えるでしょう。

兄弟子・獪岳との共通点

そして、「無限城編」で善逸と激突する兄弟子・獪岳もまた、善逸に劣らず孤独な人生を送ってきました。彼の生い立ちもまた、信頼を裏切られ、居場所を失うという悲しい経験に満ちています。二人の兄弟子は、異なる選択をしたとはいえ、共に愛と居場所を求め、そしてその中で深い傷を負ってきたという点で、非常に似通った背景を持っているのです。

鬼滅の刃 無限城編で兄弟子・獪岳の元へ向かう我妻善逸。過去の因縁が交錯する重要な場面。鬼滅の刃 無限城編で兄弟子・獪岳の元へ向かう我妻善逸。過去の因縁が交錯する重要な場面。

結論

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』における我妻善逸と獪岳の対決は、単なる強敵との戦いではなく、過去と向き合い、それぞれの選択の重みを浮き彫りにする重要な場面です。善逸が“闇堕ち”せずに光の道を歩み続けられたのは、桑島慈悟郎という師の無償の愛と、炭治郎たち仲間との出会いがあったからに他なりません。二人の共通する孤独な背景と、そこから分岐した異なる運命は、『鬼滅の刃』が描く人間ドラマの奥深さを示しており、観る者に強い感動と示唆を与えています。